日本人が大好きな「安すぎる外食」が国を滅ぼす 「ビッグマック指数」に見る経営者の歪み

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松下電器産業(現パナソニック)の創業者である松下幸之助氏は、日本では今でも経営の神様として崇め奉られています。

松下氏の経営哲学の根幹にあるのは、「水道の水のように低価格で良質なものを大量供給することにより、物価を低廉にし、広く消費者の手に容易に行き渡るようにしよう」という、「水道哲学」として知られる思想です。要は「いいものを、安く、たくさん」です。

この考え方は松下幸之助氏がご存命の時期、つまり毎年子供がたくさん生まれて、人口そして消費者も増えていた時代では、最高の戦略でした。

利益率が短期的に若干低くなったとしても、価格を安くすることによって需要が大きく喚起され、規模の経済がどんどん広がり、結果として人口の増加以上のスピードで、商品を広く普及させることができます。その結果、パイが大きくなって、長期的により大きな利益につながるという、ものすごく賢い戦略だったと思います。

松下幸之助氏が一代で立ち上げた松下電器が世界に冠たる電機メーカーになったのは、この素晴らしい戦略の成果だったことには異論を挟む余地はありません。

しかし、この松下幸之助氏の素晴らしい経営哲学も、どの時代でも通用する普遍的なものではないことを、今の時代を生きている人は理解しておくべきです。

人口減少時代には「松下流」は通用しない

まったく状況が変わってしまった今の時代に、人口が激増する時代にこそふさわしい哲学に基づいた戦略を取り続ければどうなるでしょうか。

消費者が減っているので、パイが縮小しています。いいものをたくさん作って、安く提供しても、市場は飽和状態なので売れません。当然、規模の経済も実現できません。売り上げは価格を下げた分だけ減ります。競合が同じ戦略で戦いを挑んでくれば、共倒れになってしまいます。各社が、「『ものづくり大国』日本の輸出が少なすぎる理由」でご説明した「last man standing利益」を目指して競争し、結果としてデフレスパイラルを起こします。

少し前までの日本では、小さな企業がたくさんあっても、主要銀行だけで21行もあっても、自動車メーカーが何社あっても、半導体メーカーが海外より圧倒的に多く規模の経済が利きづらくても、なんとか成立しているように見えていました。それもこれも、もともと人口が多く、さらにその数が増えていたおかげだったのです。

しかし、このことに気がついていた人はほとんどいませんでした。それどころか、他の先進国ではありえない状況が日本だけで成り立っていたため、日本経済は「西洋資本主義」ではなく、より先進的であるという錯覚までもが生まれてしまいました。

バブル景気の終わりごろになると、「日経平均は無限に上がる、上がったものは下がらない」と信じられるようにまでなりました。日本型資本主義、日本的経営などと言って、計算の世界は日本経済には関係ない、日本経済を語るうえで普通の経済学は通用しないといまだに信じている人が、特に私より上の世代には少なからず存在するように感じます。

次ページ状況の変化に気づけず、「いいものを安く」を続ける愚
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