『カノ嘘』はただの恋愛映画じゃない 小泉徳宏監督が語る『カノ嘘』の本当の見方

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音楽業界の闇の部分が描かれている

――音楽業界の闇の部分をストレートに描いていることに驚きました。メジャーデビューしたバンドの演奏をスタジオミュージシャンの演奏に差し替えたり、スキャンダルをもみ消したり、プロデューサーが自分が手掛ける歌姫と関係を持ったり、フィクションとはいえ、全国公開規模の作品で、よくぞここまで描いたものだと思ったのですが。

僕も最初は、誰かに止められたり、たしなめられたりするのかと思っていました。こういうのは大概、外側からの圧力というよりも、内側の人間が慎重になりすぎて、自主規制したりするものなのです。「これ以上やるとちょっとマズいんじゃないか」というように。でもこれが意外に何もなかった。そういうことを描くことが『カノ嘘』の醍醐味なんだと誰もが理解していたのです。だから遠慮なくいくところまでいってしまえという感じでした(笑)。

――音楽業界にもリサーチはかけたのでしょうか?

はい。「映画で描いているようなことがないとは言わないけど、すべてでもない」というのが、リサーチしたうえで僕が受けた印象です。ところが映画としては登場人物に葛藤させたいので、多少の脚色はどうしても必要になります。じゃあどこまでがもっともらしく、どこからがまったくありえないのか、監修についてくれた音楽のディレクターと事細かに打ち合わせしながら進めました。たとえば、「いや、ライブでハイハット(ドラムのパーツのひとつ)にミュートは入れないよ」とか、そういう打ち合わせです。

――主人公は、自分の音楽が消費されることに悩むサウンド・クリエーターの秋ですが、彼の前にはビジネス至上主義の音楽プロデューサー・高樹総一郎(反町隆史)が立ちはだかります。これを見て少年少女たちは、高樹に対して「大人って汚い」と思うのかもしれませんが、仕事をする人間の立場から言うと、「売れる音楽を作らなければならない」ことをベースにした彼の行動を、100%非難することもできないようにも思うのですが。

僕自身は、高樹の立場も秋の立場も両方経験したことがあるので、高樹が単純に悪いとは思わないし、秋がすべて正しいとも思わない。きっと見る年代によって感じることが違ってくるし、そこがこの映画の面白さだと思います。僕らのような30代、あるいは仕事を経験してきた人間にとっては、高樹の言うことは十分説得力があるものです。登場人物それぞれに自分の立場があって、それぞれの正義がある。ただそれがぶつかり合ってるだけ。現実世界も大概のことがそうであるように。そういうリアルなぶつかり合いが、大人の男性の共感を呼べる部分だと思っていて、敬遠されているとしたらあまりにももったいないです。

――小泉監督のデビュー作『タイヨウのうた』は音楽が題材で、アコースティックギターを抱えた少女が登場するなど、本作にも通じる部分もあるように感じたのですが。

「恋愛」「歌を歌う少女」などの点で類似しているのは確かですが、映画としての本質的なテーマが違っているので、僕の中ではまったくの別物です。でも、僕は音楽が好きですし、物語に音楽をのせたときに生まれる爆発力こそ、僕が映画をやりたいと思う動機なので、音楽についての映画はずっとやっていきたいことのひとつです。

(C)2013 青木琴美・小学館/「カノジョは嘘を愛しすぎてる」製作委員会
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