たむけん罵倒に激怒する無関係な一般人の心理 「どうでもいいこと」として捉えられない

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箇条書きにすると、主に2つに要約できるだろう。

もちろん、これ以外にもさまざまな要因が考えられるが、紙幅の関係上最低限のポイントに絞らせてもらった。

・SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の発達とインフラ化によって、私たちはインターネットのコミュニケーション空間からのデタッチメント(分離の意)が困難になり、「どうでもいいこと」に粘着しやすくなっている
・社会的なつながりの希薄化、社会的な承認の不足によって、私たちは自己肯定感が持ちにくくなっており、不安やストレスにさらされた際の避難所(シェルター)的な場所が限られる状況下で、SNSへの依存度合いが高まっている

最近、知り合いから、問題行動を起こした人々についての話を聞いた。 

仮にAさんとしよう。複数の人物のエピソードを再構成したものだ。

著名人の炎上騒動に便乗するのが楽しくなっていた

Aさんはとある政府系シンクタンクの職員で、年収は推定600万円。妻子がいて、ワイン好きで、おとなしいキャラクターだ。普段の生活も、仲のよい大学の同期たちと月に1回飲み会を開くなど、傍から見れば特に問題があるような人物には見えない。

しかし、数年前、Twitterであるタレントのアカウントに悪質なリプライを送り続け、さらにそのタレントの発言を支持するファンの何人かともケンカになった。相手に直接DM(ダイレクトメール)で暴力的な行為を示唆するメッセージを送り、それをスクリーンショットで撮られて拡散されたりもした。

現在は、TwitterもFacebookもやめ、もっぱらInstagramで食べ物や観光地の写真をアップする程度だという。

興味深いのは、Twitterで問題行動を起こしていた際の状況だ。

会社で同僚の出世が相次ぎ、内心かなり傷ついていたことと、子どもの進学をめぐって妻と対立していて、最終的には自分が折れたものの、実はまったく納得できておらず、鬱憤が溜まっていたという。しかも、これらのことを気軽に相談できる相手もなく、逆に誰にも弱みを見せたくないとの思いのほうが強かった。

気が付くと、Twitter上で不適切な発言をした著名人の炎上騒動に便乗して、リプライや引用リツイートをして叩いたりするのが楽しくなっていた。多いときはリプライに数百のリツイートやいいねが付くこともあった。ちょっとした罵倒のリプライで、著名人が本気で怒り出すのが痛快だったそうだ。

仕事の最中も、スマホに表示される通知が気になり、自然とTwitterアイコンを押してしまうようになった。食事中もトイレのときも関係がなく、暇さえあればTwitterの画面を開いてしまう。ベッドに入っても、自分のリプライがどうなったかが気になって、なかなか寝付けない。相手の嘲笑的な言動に腹が立って仕方がない――。

これはほんの一例にすぎないが、私たちが抱えている問題が示されている。

オンラインとオフラインの切り替えがしにくくなっているということだ。

産業保健心理学の世界では、近年「サイコロジカル・ディタッチメント(心理的距離)」という概念が知られるようになってきている。インターネット化の進展に伴い、職場から物理的に離れていても、常時オンラインの状態にあると、終業後もなにがしかの対応に追われ、実質的に仕事のストレスからは解放されていないとの考えから、改めて「心理的に離れていること」の重要性に踏み込んだものだ。これに近いことが、私たちのSNSとの関係性にも当てはまる。

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