FRBパウエル議長が米議会と緊密になるワケ 公表された議長のスケジュールで明らかに

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2007─09年のリセッション(景気後退)から脱け出すためにFRBによる国債買い入れなど異次元政策を駆使したことで、イエレン、バーナンキ両氏は、公然と厳しい監視の目を米議会から向けられていた。そのため議会との非公開協議を増やしたところで、批判をかわせたかは不透明だ。両氏ともコメントの要請に応じなかった。

トランプ大統領はFRBを批判しているが、パウエル議長と会合をもった議員たちは、共和党出身の大統領ではなく議長を支持している。

「大統領には、FRBがやりたいようにやらせておくよう勧めている」と、FRBを監督する上院銀行委員会メンバーのパトリック・トゥーミー上院議員(共和党)は語る。

「FRBの動きが政治的な恫喝や圧力に従っていると市場が考え始めたら、国の経済にとっても、資本市場にとっても、非常に悪い流れになるだろう」とペンシルバニア州選出の同議員はロイターに語った。

またトゥーミー議員は、11月に複数の上院議員と参加した非公式ディナーの席上で、パウエル議長が、完全雇用と物価安定という二重の責務を達成するための戦略を再考していると語ったと述べ、そうした取組みについて「建設的」で「合理的」だと評した。

パウエル議長と9月に同席し、11月のディナーにも出席した上院銀行委員会メンバーのリチャード・シェルビー上院議員(共和党、アラバマ州選出)は、こうした会合では通常、金融政策と経済に関するブリーフィングが行われると説明する。

「パウエル議長は、できるだけ議会に対して最新の情報を伝えようと努めている」と同議員はロイターに語った。この時点でさらなる利上げは歓迎できないと断りつつも、「FRBは、大統領からも議会からも独立性を持つものとして創設された。それについて今からあれこれ言おうとは思わない」と述べた。

大統領とは会合せず

トランプ大統領は、FRBで金利決定を担う連邦公開市場委員会(FOMC)の2つの空席を埋める人事を検討中であり、これが金融政策に間接的な影響を及ぼす手段となる可能性がある。FRBは昨年4回の利上げを行ったが、今月30日には金利政策の据え置きを決めた。

トランプ大統領によるFRB人事については上院銀行委員会の承認が必須だが、パウエル氏は同委員会メンバー25人のうち19人と会っている。こうした会合のほとんどは、大統領がFRBに対する攻撃を強めた7月から11月に行われた。

会合スケジュールはもっぱら議員側の都合を優先しており、かなり前から予定されていたため、このタイミングは偶然の産物かもしれない。とはいえ、パウエル議長と会った議員が、トランプ大統領によるFRB批判に気づいていなかったとは考えにくい。

「パウエル議長は大統領からの攻撃に抵抗し、金融政策の政治的な独立性を保っているという点で信用に値する」と上院銀行委員会メンバーでもある民主党のマーク・ワーナー上院議員(バージニア州選出)は語る。同議員は8月、議長と30分会談した。

またパウエル議長は、同じくFRBの監視を担う下院の金融サービス委員会メンバーの半数とも会っている。

トランプ大統領がおおっぴらにFRB批判を展開する何カ月も前から始まったパウエル議長と議員との会合は、大半が議員オフィスで30分程度会談するものだが、5分程度の電話協議が数件、さらには2時間半に及ぶ上院議員11人とのディナーもあった。

こうした会合が速いペースで重ねられていった。

イエレン前議長の場合、議員との会合時間が合計40時間を超えたのは、議長就任から17カ月目だった。バーナンキ元議長は16カ月目だ。この時点までに、両氏とも自分を指名した大統領と2回会合を行っている。

パウエル議長は、トランプ大統領との協議について前向きだと発言しているが、まだ会合を行っていない。

就任後、最初の1年を終えつつある中で、パウエル議長はいくつか困難な選択に直面している。利上げを止める時期、FRBが膨大に保有する米国債・不動産担保証券の縮小を止める時期、そしてFRBによる金融政策アプローチの見直しの是非と方向性である。

景気後退が現実となれば、前任者が活用して議会から批判を受けた「異次元緩和」に頼る必要が生じるかもしれない。その場合、議会との間で築いてきたコミュニケーション回路が、これまで以上に大きな見返りをもたらす可能性がある。

「戦略的に見れば、バーナンキ、イエレン両氏が一般社会や議会相手により対外的なコミュニケーションを図っていれば、FRBもやりやすかったはずだ」と元ミネアポリス連銀総裁で現在はロチェスター大学(ニューヨーク州)で教鞭を執るナラヤナ・コチャラコタ氏は語る。

パウエル議長の働きかけは、「議会がFRBの独立性を尊重する上でプラスになるだろうか。私はそう思うし、そうであって欲しいと願っている」と付け加えた。

(Ann Saphir記者、翻訳:エァクレーレン)

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