平成最後、首相の施政方針演説を読み解く 毎月勤労統計の責任には触れず、守りを優先

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内政や外交分野での安倍政権の取り組みを網羅した各章では、過去6年間の経済成長と税収増などを踏まえて「アベノミクスは今なお、進化を続けている」とアピール。昨年の演説で「国難」と位置付けていた少子高齢化対策の中核となる幼児教育無償化を「70年ぶりの大改革」と誇示し、それを実現することで「アベノミクスが完成する」と力説した。

2018年の施政演説には「アベノミクス」という文言がまったくなく、「首相自身が失敗を認めた証左」(立憲民主幹部)と揶揄されたことから、今年は「進化」と「完成」という表現で成功への自信をにじませた格好だ。ただ、黒田東彦・日本銀行総裁が公約した「物価上昇2%」の首相在任中の達成は絶望視されており、野党席から「完成などありえない」などと激しい野次が飛んだ。

毎月勤労統計の責任問題には触れず

毎月勤労統計調査での「不正」については、「長年にわたり、不適切な調査が行われてきたことは、セーフティーネットへの信頼を損なうものであり、国民の皆様におわび申し上げる」と謝罪し、雇用保険などの過少給付の速やかな補填などを約束した。しかし、不正調査が長年放置された原因の究明・公表への具体的手順や、根本匠厚労相らの責任問題への言及は避けた。

しかも、この謝罪の部分は前後の文脈とはまったくつながっていなかったため、「慌てて挿入したにわか仕立ての謝罪」(立憲民主幹部)との印象は拭えず、30日からの衆参代表質問で野党の追及材料となるのは確実だ。

今年10月からの消費税10%への引き上げについては、少子高齢化克服と全世代型社会保障制度構築のためには「消費税率の引き上げによる安定的な財源がどうしても必要」とし、改めて増税断行への国民の理解と協力を求めた。

昨年末以来の株価低迷・乱高下や、米中貿易摩擦などを理由に、与党内でも10%引き上げの延期・凍結論がくすぶる。内閣の大番頭・菅義偉官房長官も「最終決断は年度末前後に」と発言している。

しかし、首相は、これまでのように「リーマンショック級の事態が起こらない限り」といった予防線は張らず、「消費税をすべて還元する規模の十二分な対策を講じる」ことで増税ショックを回避して「戦後最大のGDP600兆円」を目指すと宣言した。与党内では「首相が退路を断った」(公明幹部)との見方が広がっている。

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