子供を「お金で苦労しない人」に育てる方法 普通の勉強よりもこっちの方がずっと大切だ

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また、子どもとお金の話をするときによく話題に上がるのが、「どれぐらい稼げばいいのか」ということだ。筆者の講演で最も盛り上がるのが、このテーマだ。厚生労働省が発表した『平成29年簡易生命表』によれば、現在、男性の平均寿命は81.09年、女性は87.26年だ。筆者が生まれた昭和60年は、男性が74.78年、女性が80.48年だったことを考えると、日本人の寿命は伸び続けていることがわかる。

国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の将来推計人口(平成29年推計)』を見ると、2065年時点で平均寿命の推計値は、男性で84.95年、女性で91.35年となり、さらに寿命は伸びると想定されている。我々の子ども世代なら、「人生100年」もありえなくないだろう。

生命保険文化センターの調査によれば、老後にかかる必要最低限の生活に1カ月平均22万円かかるという。それを支える高齢夫婦無職世帯の社会保障給付額は、1カ月平均19.3万円ほど(総務省統計局『高齢夫婦無職世帯の家計収支2016年度調べ』)で、民間企業と公務員の平均退職金は、約2500万円となっている(人事院の「民間企業の退職金及び企業年金の調査結果並びに国家公務員の退職給付金について」の資料、2017年4月)。

仮に65歳で現役を退き、90歳まで生きるとすると、日常にかかる最低限の生活費だけで6600万円程度は必要で、社会保障給付と退職金を合計した8290万円で足りることになる。しかし、ゆとりのある生活には月34.9万円が必要となり、その場合、1億470万円は確保してなくてはならないため、2000万円以上足りないことになる。

講演では、父兄から「これからの時代、退職金はもうもらえなくなるのではないか」という質問をよく受ける。「当然そういう方向になる」とお話ししているが、「では、どうすればいいのか」という話を始めると、子どもたちが前のめりになるのが壇上からも感じられる。

それだけ、自分の将来のお金に関心があるのだ。その中では、お金に働いてもらうという文脈から「資産運用や投資」の話をし、その中で複利の効果なども教えていくと、自分事になるので、積極的に耳を傾けてくれる。

金融教育は学校でなく、まず最低限家庭内ですれば十分

これまで書いてきたように、金融教育の話は広範にわたる。そして、金融の知識は時として武器となり、時として防具となり自分の身を守ってくれる。残念ながら、日本で金融教育が義務教育に組み込まれるのはかなり先になるだろう。そもそも義務教育では採用されないかもしれない。しかし、金融教育を行う最善の場所は学校ではなく、家庭なのだから、それほど心配することはないだろう。

教育熱心で自らも資産運用をしている親であれば、金融教育の必要性を感じており、1日も早く教材などで子どもに教え込まなくてはと思うかもしれない。しかし、筆者はそれは少し待ってもらいたいと思う。なぜなら、日常生活の中に「生きた金融教育の教材」は山ほど転がっているし、最初の1歩目を踏み出す機会も山ほどあるからだ。

下手に「早くなにか教え込もう」と考えるよりは、むしろ、まず「お金の話をすることは卑しい」という古い価値観を早急に捨てることをお勧めする。そして今日から早速、日常の風景やニュースを題材にして子どもたちとお金の話をしてみてほしい。それを心掛けるだけで、子どもの将来は少しでも明るくなるはずだ。

森永 康平 マネネCEO/経済アナリスト

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もりなが こうへい / Kohei Morinaga

証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。株式会社マネネTwitter

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