整備新幹線、今の活用法では宝の持ち腐れだ さらなる高速化や貨物輸送などの検討が必要

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なお、線路構造物は時速260kmを前提に設計とされているが、物理的にそれがまったくの限界というわけではなく、一定の余裕は見込まれており、速度向上の余地は残されている。また、平面線形や縦断線形の曲線半径・縦曲線半径は、将来的に取り返しのつかない設計にはしないとの配慮から、時速360kmでも対応できるレベルにある。

ただし、仮に速度の引き上げに臨む場合は、それら一つひとつの検証が必要になる。既設新幹線各線における速度向上は、そうした検証結果として実現されたものである。そしてまた、速度向上に必要な追加設備としては環境性能の向上が主たる内容となると思われ、防音壁等の地上側設備と、車両側での対応とを組み合わせることとなるだろう。

青函トンネルを中心とする共用区間の速度を引き上げようとする動き、時速360km運転を目指す車両開発の動き等と、積み重ねられる努力と連動して、そろそろ根本にも目を向けた具体的なアクションがほしいところだ。

さらにもう一点は「整備費が巨額」と言えば言うほど、その有効活用や活用の拡大を図らなければならないだろう。この対応として、提唱の動きが見られるのは貨物輸送、物流での活用である。

貨物輸送という新たな発想も

東海道新幹線こそ1日360本以上、繁忙期には430本に達する列車が設定され、通勤電車並みの間隔で運行されているが、それが山陽新幹線に入ると百数十本となり、それ以外の路線は100本を大きく割る。北海道新幹線に至れば現状1日定期13往復と、東海道新幹線の1時間分の本数しか走っていないのである。堅牢で立派な専用構造物と高度なシステムが、ルーラルな状況でしか使われていないのは惜しまれる。

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貨物輸送と言っても、北海道新幹線共用区間のような在来線規格の貨物列車の話ではない。新幹線用の安定したコンテナ車に積み替える方式とともに、有識者等から提示されている一案が、宅配便輸送で用いられているパレット方式の採用である。貨車にコンテナを積むのではなく、新幹線電車としての車体構造を持つ車両側面にハッチやシャッターを設けて貨物を積み込む方式である。定型の急送品等であればトラック等から機能を大幅にシフトできるのではないか。航空貨物の代替とも考えられ、これを増発余力の大きな区間だけでも実施すれば、速達性を高めることができよう。

ここにおいても、最大のネックは、旅客輸送、貨物輸送、鉄道、トラック……等で業界も監督官庁も完全に分野や所管が分かれること。すなわち共通の土俵がないことだと指摘される。全体を俯瞰して総合的に組み立てられる専門家は乏しいとされるだけに、これを結び付けて集まる舞台と相互間を結び付けて新しいモデルをつくることのできる人材が求められよう。

以上を考えれば、数多くの課題は山と積まれているが、解決に向けた活用の余地も大きく残されているだろう。これまでに築かれた新幹線、またこれから開業する新幹線、そして在来線を含む鉄道が、未来においても有用な交通機関として評価され、存在し続けることを願うものである。

鶴 通孝 鉄道ジャーナル副編集長
つる みちたか / Michitaka Tsuru

1960年東京都生まれ。城西大学卒業。編集プロダクション勤務を経て、1989年、鉄道ジャーナル社入社。編集業務の傍ら、事業者から現場まで数多くの取材記事を担当。2017年より現職。

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