日清「大坂なおみ動画」炎上→削除問題の本質 グローバル企業として欠けていた視点とは

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大坂はあっけらかんと自分のルーツを公言している。日本人でも、ハイチ人でも、アメリカ人でもない――彼女はなおみであり、ラベルをつけたがる世界において、その個性と能力で認識されることを何より求める人間である。

この事実がテニスプレーヤーとしての実力同様、大坂を、人種が混ざった先祖を持つ人やバイレイシャルの若者にとってのロールモデルにしている。特に日本において彼女はお手本のような存在だ。感受性が強いこうした若者たちは、ポジティブなアイデンティティを形成したり、健全な自己肯定感をはぐくむのに苦労している。

日本人だけに向けた広告ではない

「私の子どもたちが日本のメディアで、自分たちの“代表”を見る機会はほとんどありません」と、アフリカ系の血を引くイギリス人女性の松井氏は言う。

「黒人系の日本人という彼女の存在は、私の子どもたちに『自分らしさ』の意識を与えてくれるのです。彼女のような人々が自分を誇りに思うのを見ることで、子どもたちの日本人、そして黒人としてのアイデンティティが正当化されるのです。彼女を白人のように見せてしまえば、子どもたちにそのままではダメで、正しくないと教えてしまう。これは、私が彼らに感じてもらいたいメッセージではありません」

日本に住むバイレイシャルの子どもたちにとって、大坂選手はロールモデルとなる存在だ(写真:Aly Song/ロイター)

日本は近年観光客が増加(2018年には3100万人)しているだけでなく、より多くの移民を受け入れることもほのめかしている。さらに多様になり、さらに多くのハーフの子どもが増えることが見込まれるのであれば、日本はこうした多様化の過程における複雑さと向き合う必要がある。これは、顧客基盤を世界に広げようとしている日清のような大企業にも言えることだ。

「HUNGRY TO WIN」キャンペーンの小さな不手際でさえ大きな問題に発展しかねない。日清はこの広告のターゲットはこのアニメを見る日本人だけだと考えているかもしれないが、それは間違った思い込みだ。YouTubeやそのほかのソーシャルメディアで展開されている以上、これはグローバルキャンペーンなのである。つまり、この広告は全世界の顧客に届くものであり、その一部は大坂と同じ肌の色をした人たちだ。

この広告キャンペーンに(不注意で?)組み込まれたメッセージは、日清が潜在、あるいは既存顧客である世界中の視聴者に発信したいものなのだろうか。企業が製品の代表に選んだ著名人が、世界中の黒人や褐色の肌をした人物かつバイレイシャルの人々のヒーローであり、偶然にも世界で最も祝福されているアスリートの1人である「黒人」女性だとしても、白人のほうがベターだったと訴えたいのだろうか。

次ページ大坂を起用したことで日清が背負った重圧
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