“監査難民”の末路 不良企業は市場退出へ

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問題事務所の排除へ 登録制度が始動

さらに“難民”が続出する火ダネがある。この4月1日に公認会計士協会が導入した「上場会社監査事務所登録制度」だ。上場企業の会計監査を行う事務所は協会の名簿に登録。登録した事務所は協会が実施する品質管理レビューの結果を協会ホームページに公表することになった。 4月1日時点で上場企業の監査を行っている事務所は278。このうち約160事務所が4月17日の1次締め切りまでに登録申請手続きを行った。その一方で、33事務所が辞退届けを提出している。大半は中央青山(現みすず)が業務停止処分を受けた時点で一時監査人として選任された事務所で、会計士が5人未満の個人事務所。いわば、名義貸しを行ったにすぎず、上場企業監査を継続的に行う意思のない事務所だ。

 ただし、辞退した中には、“名義貸し”ではない事務所もある。上場企業2社の監査を行ってきたユニバーサル監査法人がそのひとつ。「職員20人と小規模なため上場企業の監査を続けることは難しいと判断した。外資系企業の仕事が増えているので、こちらに特化していく」(同法人)。ユニバーサルのような例は、ほかにも数例あるようで、クライアイント企業は後任となる監査事務所を探す必要に迫られる。

 現時点では、まだ約80事務所が登録するかどうかの意思表明を行っていない。この中の多くは、7月15日の2次締め切りまでに辞退届を出すと見られており、「第一歩として200事務所弱に減ると見ている」(増田副会長)。

 課題は、決算内容をめぐって疑義があるような不良企業の受け皿になっている問題事務所の取り扱い。こうした事務所はこぞって登録申請しており、書類さえ整っていれば登録できる。目先のところは安泰だ。しかし、登録制度の眼目は「綱渡りをしている問題監査事務所を排除していくこと」(増田副会長)。今年度中に、協会は登録事務所に対し、一斉チェックを実施。改善が必要な事項を指摘し、一定期間内に改善できない事務所に対しては登録抹消の措置をとる計画だ。

 ただ、法的には、登録抹消された事務所であっても上場企業の監査を続けられる。あとは東証などの株式市場や投資家が、そうした問題事務所への監査依頼を続ける企業に対し、どう対応するかが問われる。
 悪質な監査法人と企業を資本市場から淘汰する自主規制の仕組みに“魂”が入るかどうか--。今は、重大な局面である。

(撮影:吉野純治、『週刊東洋経済』2007年5月19日号)

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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