燃料盗難が多発するメキシコ「笑えない対策」 左派新大統領が過去の「慣行」にメス

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報道によると、ペーニャ・ニエト前大統領の政権時まで燃料の盗難防止対策はほとんど取られていなかった。というのも、メキシコの政治はこの70年余り2大政党の国民行動党(PAN)と制度革命党(PRI)という右派によって政権が運営されて、この2大政党の議員がカルテルなどと癒着して資金の提供をこれまで受けてきたからとされる。

麻薬カルテルや小規模な犯罪組織以外に、一部企業経営者もそれに絡んでいる。たとえば、ケレタロ州のガソリンスタンドやカジノをチェーン展開しているハビエル・ロドリゲス・ボルヒオの場合、PEMEXから盗んだ燃料をタンクローリー車に詰めて隠していたことが警察当局の調べで明らかになっている。

パイプラインの随所に抜き出し口が!

それを自らが経営するガソリンスタンドで販売したり、闇で安価に密売して得た資金を元上院議員で、現州知事フランシスコ・ドミンゲス・セルビエンの選挙資金に充てていたこともわかったという。

一方、アムロ氏は左派系の新しい政党、国民再生運動(MORENA)の党首であり、同党の議員同様にカルテルなどとの癒着がない。だから、アムロ氏はあえてこの盗難にメスを入れることができたのである。問題は盗難防止への取り組みを急激にやりすぎたことから、ガソリンスタンドなどで燃料不足が発生していることだ。

アムロ氏は大統領に就任してすぐにこの問題に取り組み、12月20日から軍隊に連邦警察も加えた4000人規模の人員を、PEMEXが所有している精油所やパイプラインのターミナルなど58カ所に派遣して監視強化に乗り出した。

だが、カルテルと密接な関係にある地方自治体の警察はこの種の取り組みに参加しない。一方、軍隊の場合、一部がカルテルと癒着しているとはいえ、国家規模の犯罪の取り締まりには彼らの力を使わないわけにいかない。そこでアムロ氏は、軍部からの信頼を得るため、就任早々に軍隊幹部との会合を持ってきた。

ただし、軍隊などを主要スポットに派遣したからといって盗難をすべて取り締まれるわけではない。何しろ2018年10月までにパイプラインの途中で石油を抽出するための抜出し口が1万2581カ所も見つかっているというのである。すなわち、1日に42カ所の抜き出し口が誕生していた計算だ。抜き出し口が特に多いのは、タマウリパス州(1084カ所)やプエブラ州(1815カ所)など、カルテルが勢力を振るっている州である。

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