燃料盗難が多発するメキシコ「笑えない対策」 左派新大統領が過去の「慣行」にメス

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加えて、アムロ氏は盗難防止策として、PEMEXが所有している一部のパイプラインを閉鎖させ、パイプラインに抜き出し口を付けても燃料が盗めないようにもした。しかし、これは市場に供給する燃料の量を縮小することでもあり、このためメキシコ全土が激しい燃料不足に陥ってしまったわけだ。

パイプラインから燃料を抽出するには、内圧を下げてから抜き出し口の穴を開ける必要があり、この作業には「タピネロス」と呼ばれる熟練者が必要だという。タピネロスの多くはPEMEXに関係した人物だとされている。前述の通り、PEMEXの内部にも盗難協力者がおり、アムロ氏が取り締まりに乗り出してからすでにPEMEXの職員3人が逮捕されたというが、2018年までにおよそ100人が盗難に関与していたということで解雇されているという。

建設現場も盗難燃料を買っていた

ガソリン貯蔵タンクからガソリンを抜き取り、それをホースを使って用意したタンクに移すという装置を使う盗難方法もあり、こうした装置も見つかっている。

一部の犯罪組織はガソリンスタンドと結託し、盗んだガソリンや軽油をガソリンスタンドに販売していたことも明らかになっている。同様に建設現場でも、燃料が販売されていたことも発覚している。アムロ氏によると、「建設現場では多くの会社が盗まれた燃料を購入している。(それを証明すべく)大規模な建設現場では、ディーゼル油やガソリンの貯蔵タンクが見つかっている。今は経営者たちに対して、こうしたことをしないように呼び掛けている」。

石油産油国であるメキシコでは、PEMEXがほぼ独占的に専売事業を行ってきた。イギリスのエクソンモービルなど外資もメキシコ市場に進出しているが、その規模はまだ大きくはない。PEMEXの経営効率が悪化していることはこれまでも認識されてきたが、歴代政権との癒着が激しいこともあり、直接「改革」に取り組むようなことはこれまでなかった。

国民からの高い支持を得て、70年あまり続いた右派政権に終止符を打ったアムロ氏は、メキシコが抱える闇の1つに切りこもうと意欲を見せている。国民生活に悪影響を与える問題の長期化はアムロ政権に打撃を与えかねないが、この取り組みが成功すれば国民からの信頼はいっそう強いものになるだろう。

隣国のアメリカに我欲の強いドナルド・トランプ大統領が登場したこともあって、メキシコは彼の威圧に屈しない大統領の登場が必要だった。そんな意味で、野党で十分に揉まれ、しかもチャレンジ精神旺盛で3度目の正直で大統領になったアムロ氏への国民からの期待は非常に強いのである。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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