担任は50代の男性教師だった。生徒たちに人気のある先生だった。長年教壇に立ち続けており、草下さんの母親も彼の授業を受けたという。
「伝え聞いたところによると、先生は教え子の母親と不倫をしていたそうです。いろいろあって無理心中をすることになって、相手(教え子の母親)は殺したけれど自分は死にきれなかった……という話らしいです」
テレビ取材もやってきて、小さな町はちょっとしたパニックになった。
朝礼では校長先生が
「マスコミには余計なことを言うな」
と生徒たちににらみを利かせた。
担任がいなくなってしまった草下さんのクラスには、ピンチヒッターの教師がやってきた。しかし学級は崩壊しており、まともな授業にはならなかった。みんなで先生を無視したため、泣き出すこともあった。その先生は学期途中で辞めてしまった。
「親と先生って大人の見本じゃないですか。その先生が人を殺したと聞いて『大人って信用できないな』って思いました。
それから『人間って何か?』『犯罪って何か?』と考えるようになりました。それが自分が今歩いている道につながってるのかな?と感じます」
もともと少し冷めた性格だったが、殺人事件以来もっと冷めてしまった。そんな気持ちのまま、中学校に進学した。
あまり熱心に勉強はしなかったが、成績はよかった。
当時は『湘南爆走族』や『今日から俺は!!』『カメレオン』など不良漫画がはやっていた。草下さんの友達も不良になっていった。
「僕は不良にはならなかったけど、友達はワケありの人が多かったですね。母子家庭だったり、父親が暴力団員だったり、罪を犯してしまった奴もいました。そういう人たちは話していて悲しみがあるんですよ」
(母親がこの時間に出ていくって、どういうことだろう?)
(コイツには父親の話をしちゃいけないんだろうな)
一緒にいて疑問は湧いても、言葉には出さない。何も聞かない。
そんなふうに相手を思いやりながら付き合っていくのが心地よかった。
世の中のルールを自分で変えてみたい
「学外ではそんな友達と遊んでました。それとは反面、『世の中のルールを自分で変えてみたい』という気持ちも湧いてきました。それで、学内では生徒会長になりました」
生徒手帳には、選挙で校則が変えられると書いてあった。だったら変えてみようと思った。
「シャツや靴下のワンポイント柄」を認めさせる提案をし、投票をしたところあっさり校則を変えることができた。
続けて「帰宅時には制服を着用すること」という校則を、ジャージーでも帰宅できるよう提案し変えた。
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