政府・銀行業界に申し上げる、新自己資本比率の一時的凍結実施を

従来の規制が一般事業法人向け与信をリスクウエート100%で換算してリスクアセット(自己資本比率規制上の資産)とするようにしていたのに対して、バーゼルIIでは一般事業法人向け与信を個々の企業に細分化したうえで、個別企業の信用度(具体的には格付け)を反映したリスクウエートを適用してリスクアセットを算出するように変わった。

格付けが下がると、リスクウエートは100%ではなく、200%にも300%にもなる。つまり、規制上のリスクアセット(資産)は信用供与を受けた企業の信用度に応じて、2倍にも3倍にも膨張。自己資本が一定であれば、リスクアセットの膨張は自己資本比率の低下に直結して、次のような悪循環が発生することになる。

すなわち、「不況による企業業績悪化→リスクウエートの上昇によるリスクアセット膨張→銀行の自己資本比率低下→銀行によるリスクアセット抑制、あるいは縮小(貸し出し慎重化)→不況の進展、企業業績の悪化……」というメカニズムである。

日銀がいかに金融市場に資金供給しても、このメカニズムが厳然と働くかぎり、企業金融の逼迫感が緩和されることは期待薄だ。むしろ、現状の景況下では、日銀の資金供給努力を帳消しして、実体経済への流動性供給を悪化させる。

それだけではない。日銀発表の一連の資金供給拡策には、企業の社債や企業向け貸出債権の担保対象拡大が盛り込まれた。従来の「シングルA相当以上」から「トリプルB相当以上」に格付け要件を引き下げることによって、銀行の担保余力を高め、与信拡大を促す狙いがある。

確かに、社債や貸出債権を担保拠出した分だけ銀行は日銀から資金供給を受け、貸し出しを拡大できるようにも見えるが、やはり、自己資本比率規制の制約から銀行は逃れることはできない。担保拠出したとはいえ、銀行のバランスシートから社債や貸出債権が外れたわけではなく、引き続きリスクアセットであり続けるからである。

深刻な流動性危機が発生している中で、自己資本比率規制上から銀行の貸し出し能力を抑え込むことになるバーゼルIIは一時的に凍結すべきではないか。あるいは、その制約に頭を痛めている銀行業界は、政府や監督官庁にバーゼルIIの凍結を要請すべきではないか。

国内外で重要に

12月2日、政府と銀行業界代表の意見交換会が開催され、銀行業界の代表は銀行への公的資金注入法制(金融機能強化法)の制定を政府に要請した。同法成立を急ぐ政府との出来レースであることが明らかな会合だった。流動性危機の中での金融の担い手は、公的資金注入以外にも主張、要請することがあった。

とにかく、企業への資金供給に真剣な取り組みを銀行業界は求められている。その努力を怠り、今後、年度末までに企業の資金繰り破綻が激増すれば、そのとき銀行は社会から厳しい指弾を受けることを肝に命じなければならない。

さらにグローバルな視点から論ずると、欧米の金融業が著しく信用創造機能を毀損している中で、わが国金融業の役割は極めて大きくなっている。その役割を疎かにすれば、特に欧州で台頭しかけている「欧米諸国の通貨切り下げ」、つまり、わが国など「経常黒字国の負担による危機の打開」という主張が急速に強まることにもなりかね
ない。

わが国金融業界の信用創造能力を改善することは、グローバルベースの信用収縮緩和の一助になるだけではなく、わが国の国益にも資することを強調したい。

(浪川 攻 =週刊東洋経済 写真:今井康一)

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