誰からも嫌われたくない人が生きづらい理由

名越康文が「対人関係のコツ」を徹底解説

仕事ができる人というのは、心のどこかで「嫌われても大丈夫」というメンタリティーを持っているように思います。ただ、これを身に付けるのは、過剰適応の傾向を持っている人にとっては、意外と難しいハードルだと言えます。

「あの人に嫌われたって平気だよ。ほかの人がみんな、君を嫌っているわけではないんだから」と言われたところで、なかなか、無意識レベルに根を張った「嫌われることへの恐怖心」はぬぐえません。

「嫌われても大丈夫」だというメンタルを身に付けるための1つの方法として、ビジネスマンの場合は、「人に負けない」と思える何かを、自分の中に持っておくことが有効だと思います。この「人に負けない何か」は、別に仕事に直結している必要はありません。むしろ、仕事とまったく無関係なもののほうが、かえってメンタルの支えになることがあります。

僭越ですけれど、僕の場合を例に挙げると、中学生の頃、「漫画を描く」ということを、1つの心の支えにしていました。別にプロになろうということではなかったのですが、クラスの中で自分はいちばん漫画を描くのがうまいと思っていました。実際にいちばんうまかったかどうかはともかく、学園祭などでポスターを描くときには、絵を描いてくれと頼まれました。そうやって誰かから必要とされる場面があることが、心の支えになっていたのでしょう。

趣味の世界でも結構ですので、そういう「負けないもの」を1つでも持っておくと、誰かから嫌われたり、いじめられたりすることがあったとしても、そうした困難を乗り越える力、1つの拠り所になることがあるのです。

承認欲求を満たすのは自分

「承認欲求」という言葉があります。一般的には、「他人から認めてもらいたい」という欲求だと言われていますが、実は、承認欲求というものを本当の意味で「満たしてくれる」のは、他人ではなく自分です。

「他人が自分のことを認めている」ということがわかっているだけで、心は安定を取り戻します。それはとてもうれしいし力強い体験です。しかしそれは同時に、よく効く「痛み止め」のようなものです。いつの日か、そこからさらに、「自分で自分を認める」という経験をする必要があります。そうでなければ、承認欲求は終着点に行き着かないのです。

長期的にみれば、人から好かれる体験だけでは、承認欲求が収まって安心感を得ることはできません。それよりも、人に負けない「得意分野」を1つ作っておいたほうが、承認欲求が満たされ、「嫌われても大丈夫」という安心感が育まれてくるのです。

別に宴会部長になってもいいし、エクセルのデータ処理が上手で、いろんな部署からデータ整理を頼まれる、といったことでもいいでしょう。小さな分野、特殊な分野、ちょっと変わった分野のほうがむしろいいでしょう。何か1つ、他人に負けないものを作っておくこと。そうやって「万が一、嫌われても大丈夫」という安心感を心の奥底で育てておくことこそが、苦手な相手と一緒に仕事をしていくための、第一歩なのです。

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