「女性の料理が笑われる」TBS番組への違和感 TBS「平成の常識・やって!TRY」は常識的か

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ライフスタイルによっては、結婚後に夫が料理を担当することもあるだろう。必ずしも女性だけが、若いうちから料理が得意でなければならない必然性が薄くなっていることも、番組への違和感を持つ人が増えている背景にはあるのではないだろうか。

3つ目の要因は、人権意識そのものの変化だ。一昔前なら被害者が泣き寝入りしていた権力者の行為も、今はパワハラやセクハラと抗議できる時代になった。「上から目線」という言葉も定着している。そんな時代にできる者ができない者を笑う行為を公共の場で続けることは、現代の感覚からはずれていると思われても仕方ないだろう。

家事全体を夫婦で協力するのが理想、というが

番組開始から30年経ち、番組を見る人たちの生活や意識は大きく変わっている。こうした中、制作側も「女性の社会進出が進んだ現在、家庭において主に女性が料理をするという考えは過去のものになっていると思います。料理のみならず家事全体を夫婦で協力して行うことが理想だと思いますし、それぞれの家庭でそのように取り組んでおられることだと考えています」(王堂氏)としている。

「その上で、男性女性を問わず、料理をすることはすばらしいことだと思います。食べてくれる人、食べさせてあげたい人を思って料理することは、喜びも感じられることなのだと思います。失敗したとしても、TRYすることは楽しいことではないでしょうか。しかもその中に、祖母や母の味を伝承し、料理に生かしている人がいたら、それは素敵なことではないでしょうか」とも問いかける。

制作者側には悪意はないだろうし、誰かに食べさせてあげたいと思ってトライすることは悪いことではない。しかし、視聴者、とりわけ、女性が違和感を抱く作りになっていては、その意図も台なしではないだろうか。

「家庭において主に女性が料理をするという考えは過去のものになっている」という認識であれば、コーナーに出てきて料理するのは、若い女性だけでなく、男女半々でもいいだろう。「祖母や母の味を伝承している人」をすてきだとするのならば、母や祖母から教わった腕前を披露する女性の例をもっと増やさないのはなぜなのか。

平成も終わろうとする今、お茶の間を長く楽しませてきたコーナーだからこそ、見せ方を再検討するべき時を迎えているのではないだろうか。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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