東急、「池上線」テコ入れの裏に潜む危機感 2年連続で「活性化イベント」、住民の評価は?

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ところが、近年、東急は上述のように駅改良工事を進めるとともに、「生活名所」プロジェクトを立ち上げて池上線のブランディングにも力を入れ始めた。同プロジェクトは、沿線の神社仏閣や店舗、公園、鉄道施設など、”池上線らしさ”が感じられる場所を生活名所として選定して情報発信し、広く池上線の良さを知ってもらおうという取り組みだ。その一環として、2017年はフリー乗車デー、2018年は全線祭りを開催した。

沿線15駅中14駅の代表や蒲田駅長の高塚豊さんらが集まって洗足池ボートハウスで行われたオープニングセレモニー(筆者撮影)

こうした取り組みを始めた理由について平江氏は次のように語る。

「現状、池上線の輸送人員は年々増えており、1日平均輸送人員は2007年度に約21万4000人だったのが、2017年度は約24万2000人と10年で1割以上増えている。しかし、今後10年くらいで沿線人口が頭打ちになることが予想される中、他線との相互直通運転を行っていない池上線は、沿線の魅力が落ちれば比例してお客様も減っていくと考えている。沿線の魅力と認知度アップにより、短期的には観光等の定期外利用を増やし、長期的には沿線への移住促進などにより沿線人口減に歯止めをかけるような施策を、今からやっておかなければ手遅れになる」

ちなみに、東急には池上線と同じような沿線ロケーション、運行形態の路線として東急多摩川線がある(西武多摩川線と区別するため「東急多摩川線」と呼称)。上記のような理由でブランディングするならば、池上線のみならず東急多摩川線も一緒に対策すべきではないだろうか。この点について平江氏は「もちろん、東急多摩川線の活性化も必要と考えており、これまでもアートや町工場を生かしたPRを実施してきた」という。しかし、明言はしないものの、東急多摩川線よりも池上線の認知度アップを優先事項と考えている印象を受ける。

あくまでも筆者の予想ではあるが、東急多摩川線に関しては、将来的に矢口渡駅付近から地下化し、東急蒲田駅、京急蒲田駅を経由して京急空港線に接続する新空港線(蒲蒲線)計画が念頭にあり、利用者減をさほど懸念していないのかもしれない。

2017年フリー乗車デーの効果は?

さて、こうしたブランディングの取り組みは、どの程度の効果があるのだろうか。まず、2017年に実施されたフリー乗車デーでは、1日だけで延べ56万9000人(前年同日【体育の日】比で371%)が乗車したという。ただし、この人数は、あまりにも混雑しすぎたために自動改札機を開放したので正確な数値をカウントできておらず、配布したフリーきっぷ19万枚と、平均乗降回数の推測値から算出したものだという。

また、池上線の認知度は、フリー乗車デー実施前には54.3%だったのに対し、実施後は63.7%と10%近く上昇した。この認知度調査は、洗足池駅を中心に半径30km圏内の1500人を対象にネットで実施したという。半径30kmといえば千葉県であれば船橋市や松戸市、埼玉県であれば草加市、神奈川県であれば藤沢市あたりだ。イベントの効果の大きさもさることながら、半数近くの人が池上線を知らなかったというのも驚きだ。

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