金正恩氏が歴史的「訪韓」を遅らせている事情 暗殺リスク回避に加え、外交上の計算も
韓国では、北朝鮮の金正恩労働党委員長の年内訪韓をめぐって臆測が激しく渦巻いている。だが、北朝鮮がらみの外交日程のいくつかは、すでに2019年に先送りされている。訪韓が年内に実現する可能性は、もはやほとんど残されていない。
9月の南北首脳会談では、正恩氏が「早期にソウルを訪問する」ことで合意した。実現すれば、北朝鮮の最高指導者としては初の訪韓になる。歴史的な出来事であることは間違いないが、同時に相当な物議を醸しかねないイベントであり、何が起こってもおかしくない。
タイミングを計る北朝鮮
仮に訪韓が実現することになったとしても、警備上の理由から直前まで予定が公表されることはないだろう。では仮に実現するとしたら、どのようなイベントになるのだろうか。南北は何を話し合い、どんな合意をすることになるのか。現在の朝鮮半島情勢をもとに分析してみよう。
9月の南北首脳会談で採択された「平壌共同宣言」には、確かに正恩氏が「韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の招請により、早期にソウルを訪問することで合意した」とある。だが、具体的な日程についてはまったく言及がない。
具体的な日程が広く語られるようになったのは、文氏が訪朝から帰国した後だ。帰国した文氏は、「特別な事情」がない限り正恩氏は年内に訪韓することになる、と具体的なスケジュールを口にした。しかし北朝鮮メディアでは、その後も「年内の訪韓」といった情報はいっさい流れていない。
北朝鮮が日程をあいまいなままにしているのは、正恩氏にとって最も都合のよいタイミングで訪韓できるよう柔軟性を確保しておきたいからだろう。
正恩氏は合意文書に明記されたこと以外は約束を守らないことがわかってきている。たとえば、北朝鮮はシンガポールで行われた6月の米朝首脳会談で、東倉里(トンチャリ)にあるミサイルエンジンの試験場を取り壊すと非公式に約束したが、まだ履行されていない。4月の南北首脳会談では、爆破した豊渓里(プンゲリ)の核実験場で国際査察を受け入れると約束してもいるが、正恩氏はまだ、この約束も果たしていない。文氏は10月に、正恩氏が「近く」ロシアを訪問しウラジーミル・プーチン大統領と会談し、中国の習近平国家主席も「近く」訪朝すると語ったが、いずれもまだ実現していない。