「ボヘミアン・ラプソディ」なぜ若者に人気? 「元祖Jポップ」としてのクイーンの魅力

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さて、日本の音楽シーンにおいて「クイーン・フォロワー」は一見すると見つけにくい。しかし分析的に聴くと、クイーンと共通点の多いバンドがある。

1980年代でいえば、楽器やコーラスを幾重にも重ね、その上に小田和正の高音ボーカルが乗るサウンドを量産したオフコース。1990年代以降でいえば、カラオケで歌いたくなる快感性の強いメロディー、大サビまであるドラマティックな構成に加え、桜井和寿の乾いた高音ボーカルが印象的なMr.Children。彼らはサウンドがクイーンと似ている部分が少なくない(Mr.Childrenは今年「here comes my love」という、クイーン色の強い楽曲を発表)。

しかし、1980年代から現在に至るまで、クイーン・サウンドを意識的に活かしながら、第一線の人気を得続けた決定的な存在はTHE ALFEEだ。いくつかの代表曲における、3人による分厚いコーラス、派手派手しく歪んだギターサウンド、そしてキャッチーなメロディーは、実にクイーン的だと思う(2006年に発表された楽曲「ONE」は、とりわけクイーン色が強い)。

オフコースとMr.Children、THE ALFEE。この一見バラバラな3つのバンドに、クイーン・サウンドの遺伝子を見てみたが、彼らはあくまでここで挙げた例にすぎない。

もっと幅広いさまざまなバンドが、「日本で最も人気のある洋楽バンド」クイーンから直接的・間接的に影響を受け、「音の厚み」「メロディーの明快さ」「ドラマティックな構成」のあるサウンドを拡大再生産し続けた結果、現代のJポップ・サウンドが形作られていったのである。

そんなJポップ・サウンドを、子どものころから聴き続けてきた若年層が、JポップらしさをJポップよりも含有している、ある意味「JポップよりもJポップらしい」クイーン・サウンドの魅力に惹かれ、あの音の世界・音の洪水にまた溺れたいと思った――この構造が、映画『ボヘミアン・ラプソディ』における「若年層需要」と「リピート需要」の獲得要因だと考えるのだ。

この映画は単なる伝記ではない、「ショー」だ

実は、私自身はこの映画に感動しつつも、いくつかの史実の跳躍など、正直乗り切れない部分もあった。これは“半“リアルタイム世代の狭量な感覚だろうか。しかし、クイーン・サウンドにハマっている若年層を見て、この映画はドキュメンタリーではなく「ショー」として、最高の出来なんだと思い直すことにした。

映画の最後の最後に流れる曲は、「ザ・ショー・マスト・ゴー・オン(The Show Must Go On)」。2018年の洋画シーンは『グレイテスト・ショーマン』に始まり、グレイテストなショーとしての映画=『ボヘミアン・ラプソディ』で暮れていく。

来る2019年、次の元号の時代にも、とびっきりのショーが、ずっとずっと続いていくことを願う。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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