北海道民は「JRへの税金投入」に納得できるか 方向性を示せない道庁と知事に不満の声も

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危機感をもって宗谷線の利用促進策に取り組む幌延町など注目すべき動きはある。地道な施策の積み重ねが、住民たちの現状理解につながり、鉄道を持続させようという雰囲気を醸成させる。ただ、前向きな自治体はごく少数だ。

道の交通政策総合指針に携わった岸邦宏北海道大学准教授は、道と市町村、JR北海道、国などが一体となって「北海道や地域にとって最適な交通は何か」議論を続けることが大切と指摘した。知事や市町村長たちは、道民に「公共交通を維持するため何ができるか」と問いかけ、幅広い視野から議論を行うべきだった。

今後、北海道は急激な人口減を迎える。2040年の道内人口は今の4分の3との予測もある。維持困難8路線は10年後、20年後に鉄道として存続できるのか。年数十億円単位の税金を投入する価値はあるのか。沿線の住民は本当に利用するつもりはあるのか。

国交省が支援を見送った理由

他の交通機関との役割分担も考えないといけない。高規格幹線道路の整備で並行するJR線の利用者が激減した現状をどう考えるのか。大赤字の要因である鉄道貨物の今後、北海道新幹線の高速化と札幌延伸、並行在来線、あるいは道管理空港の赤字問題など課題は山積みしている。道が交通政策の「選択と集中」をしないから、すべてが中途半端になっている。

幌延町は、宗谷線の将来に危機感を抱き、2015年から利用促進策に取り組んできた。町内の無人駅を「秘境駅」として観光資源にする取り組みもその1つだ(筆者撮影)

高橋知事は、国の大型支援と地方財政措置に最後の望みを託していた。通常、地方公共団体が地域鉄道に補助した経費の30%は国の地方交付税で穴埋めする形になるが、北海道に限っては、5、6割に増やしてほしいと要請していたという。

だが、12月4日になって、新聞各紙は「国が維持困難8路線の2019年度支援見送り」と報じた。総務省が国負担の上積みを認めなかったようだ。

他府県の自治体も、財政的に厳しい中で、赤字の地方鉄道を支えるために毎年億単位の支出をしている。北海道の特殊事情はわかるが、JRだけでなく地元も「努力」しないと、他地域の国民に納得してもらえない。

島田社長は、11月29日の道議会特別委員会で「このままでは2022年度に資金ショートする可能性がある」「道や自治体からの財政支援が欠かせない」と答弁したが、道議たちは「JRの経営努力策が示されていない」と批判するだけだった。

国交省は、今年、維持困難路線を支援する条件として、道内自治体によるJR北海道への協力、国と同水準の財政支出の実行を求めてきた。しかし、北海道が「努力」する意欲を示さないなら、大型の長期支援を見送らざるを得ない。

来年2019年はターニングポイントとなる。

まず、国交省の示した「第1期集中改革期間」がスタートする。道は「北海道鉄道活性化協議会」を設立し、広告宣伝やクーポン券販売で利用を促進するというが、間接支援だけで目に見える成果を出せるのか。

もう1つは、4月の北海道知事選挙だ。高橋知事出馬見送りとの報道もあった。知事候補者たちがどのような政策を提案していくのか。JRの超赤字路線の存続問題は東北や四国、山陰、九州などでも悩みの種だ。道内のみならず全国的な議論につながるアイデアが示されることを期待したい。

森口 誠之 鉄道ライター

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1972年奈良県生まれ。大阪市立大学大学院経営学研究科前期博士課程修了。主な著書に『鉃道未成線を歩く(国鉄編)』『同(私鉄編)』など。

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