谷垣氏に国政復帰を望む声、思惑はさまざま 自身は否定も、首相周辺は「参院比例に」と
その一方で、自民党内では「谷垣氏が政界に復帰すれば、首相は憲法改正実現のためのカードとして使うのではないか」(岸田派幹部)との声ももれてくる。自民党が野党だった2012年に「自民党改憲草案」をまとめた際の総裁は谷垣氏。同草案では戦争の放棄を定めた憲法第9条については、戦力不保持をうたった2項を削除しての「国防軍の保持」を盛り込んでいる。起草者の1人だった石破氏が「党が決めた自民党草案を否定するものだ」として、9条2項を残しての自衛隊明記を軸とする首相の改憲案に反対した根拠ともなっている。
谷垣氏は幹事長時代に「あの改憲案は野党だから少しエッジを利かした内容だ」と9条部分の修正にも柔軟姿勢をにじませていた。臨時国会での憲法審査会の与野党協議も始まらない現状では、首相が目指す来夏の参院選前の国会改憲発議は絶望視されている。首相サイドには、「谷垣氏が参院選で議員に復帰すれば、副総裁などの要職に就けて、党側の憲法改正のまとめ役として与野党協議の促進に一役買ってもらいたい」(官邸筋)との思惑もあるとみられている。いわば「安倍改憲の目隠し役」(自民幹部)というわけだ。
「安倍改憲に利用されると晩節を汚す」と警戒も
もちろん、谷垣氏自身はそうした思惑絡みの政界復帰論には取り合わない考えであろう。政治家としての自己主張も控え目だった谷垣氏が、過去に「総理・総裁候補」の地位を築けたのは、「表裏のない誠実さ」だったことは間違いない。「加藤の乱」の際、森喜朗首相(当時)に対する内閣不信任案に賛成票を投じるため、1人で衆院本会議に乗り込もうとした加藤氏を「あなたは、大将なんだから…」と泣きながら引き留めた谷垣氏の姿は、テレビ中継されたこともあって多くの国民の記憶に残っている。
「東大山岳部卒」と自称するスポーツマンだった谷垣氏にとって、「車椅子や杖に頼って周囲に気を遣わせての議員復帰は、人生観とは相容れない」(側近)との見方もある。
にもかかわらず、谷垣氏の政界復帰説が広がるのは、「1強にあぐらをかいた安倍政権とそれに忖度する霞が関などの閉塞的状況について、政界全体に不満が根強い」(自民長老)との背景があるからだ。身体の不自由さとは別に、頭脳や弁舌は事故前と変わらないだけに、関係者の間には「谷垣氏の政界復帰の可能性はゼロではない」との期待が広がる。
その一方で「安倍政治へのアンチテーゼ、という立場での政界復帰のつもりが、安倍改憲の下支え役となれば、晩節を汚すことにもなりかねない。谷垣氏は受けないだろう」(同)との声も多い。
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