ソニー「アイボ」は次の飯のタネになれるか? 担当役員が語る「ベンチャー投資」の狙い

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――そもそも御供さんは、30年以上にわたって知的財産分野にかかわってきましたが、なぜベンチャーファンドの責任者になったのでしょうか?

ファンド創設が発表された2016年6月の少し前、平井一夫社長(現会長)に頼まれたのがきっかけだ。そのとき、何で僕がやるんですかと聞いたら、平井さんは「知的財産の仕事と、ベンチャー育成の仕事は似ている」と言う。

他社の持つ技術を客観的に見定める知財の仕事と、将来性のありそうなベンチャーを見いだすファンドの仕事は根本的に共通しているというのだ。もっとも、知財の仕事の一部として、IoT機器ベンチャー「ネスト」に出資し、特許訴訟を手助けするなど、企業に出資・買収をした経験はあり、まったく土地勘のない仕事でもないのだが。

ソニーは外部のものを取り入れるのが得意だ

ソニーは平井さんが社長になってから、社員に従来の専門とは異なる領域をどんどん任せるようになった。

――「ウォークマン」や「プレイステーション」など、自前主義の印象が強いソニーですが、オープン戦略はなじむのでしょうか。

もともと、ソニーは外部のものを取り入れて新しいことをやるのが得意だ。「プレイステーション」のようにゼロから自分たちで作ったものがある一方で、人がやっているものを取り込んで、別の使い方で革新的なものを作ることもやってきた。

たとえば、ソニーの最初の看板商品となったテープレコーダーも、実は安立電気(通信計測器を手掛けるアンリツ)という他社の特許権を買って作ったもので、トランジスタラジオも半導体のライセンスは他社のものだ。自前でやることにそこまでこだわりはない。

――これまで社内から新規事業を公募する「SAP(Seed Acceleration Program)」などの取り組みをしてきました。スマートウォッチ「wena wrist」が量産化に成功するなどの事例もありますが、いずれも小粒な印象です。

新規事業の役割には種類があって、ボトムアップ型のものとトップダウン型のものがある。両者を同じ土俵で考えるべきではない。たとえば、吉田憲一郎社長が今年打ち出した車載向け事業の強化はトップダウン型の新規事業なので、大きく人や資金を割いて規模を出す。

一方、社内公募型の取り組みであるSAPから生まれた事業が一夜にして大化けするとは考えにくく、もっとロングスパンで育成していく類いのものだ。

事業の規模としては大きくないSAPだが、やった意味はある。同プログラムが始まったのは2014年。業績的に厳しかったソニーが構造改革真っただ中のときだ。会社として、社内に溜まったいろいろな欲求のはけ口を、きちんと作るという目的もあった。

ソニーがイノベーションを起こしているかどうか、いろんな見方はあるが、僕個人としてはできていると思っている。

印南 志帆 東洋経済 記者

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いんなみ しほ / Shiho Innami

早稲田大学大学院卒業後、東洋経済新報社に入社。流通・小売業界の担当記者、東洋経済オンライン編集部、電機、ゲーム業界担当記者などを経て、現在は『週刊東洋経済』や東洋経済オンラインの編集を担当。過去に手がけた特集に「会社とジェンダー」「ソニー 掛け算の経営」「EV産業革命」などがある。保育・介護業界の担当記者。大学時代に日本古代史を研究していたことから歴史は大好物。1児の親。

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