西日本の「物流大動脈」山陽線の特殊な事情 急曲線と急勾配で貨物大量輸送に不向き

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新線への切り替えにより、旅客列車のスピードアップという効果ももちろん獲得可能だ。しかし、山陽線の列車の高速化という目標は、新大阪―博多間で総工事費8236億円を要した山陽新幹線の整備によって達成された。

この区間で運転されている定期運転の旅客列車は普通列車だけであり、旅客運輸収入の少ない普通列車では新線の建設費を回収できないと見込まれているのだ。

新線に切り替えるには他の理由も挙げられる。先に例に出した三原―本郷間の場合、三原駅付近の連続立体交差化という目的も果たせたために新線への切り替えが実現した。

自然災害に頻繁に遭遇するというのも大きな理由となる。JR四国の土讃線阿波池田―土佐山田間67.4kmでは地滑りや土砂崩壊が頻発したため、阿波川口―小歩危(こぼけ)間、大歩危(おおぼけ)―土佐岩原間、大田口―土佐穴内間、土佐岩原―豊永間、大杉―土佐北川間の5区間で新線への切り替えが実施された。

しかも、大歩危―土佐岩原間、大杉―土佐北川間では異なる2カ所で新線への切り替えが行われたほどである。

八本松―瀬野間の場合、連続立体交差化が必要なほど沿線の都市化は進展していないし、幸いにもと言ってよいのだが、平成30年7月豪雨で大きな被害が生じるまで自然災害をあまり受けないでいた。したがって、新線へと切り替える動機にはならない。

新線は「不経済」になりうる

仮に急曲線や勾配を緩和した新線に切り替えても、線路を維持するための費用はかえって増えると予想される点も、改良が進まない有力な理由の一つとして挙げられる。

せっかくの新線がなぜ不経済なのかというと、勾配の緩和に伴って線路の長さが従来よりも延び、その分列車の運転費であるとか、線路の維持費である線路保存費が増加するからだ。

この点については、1968年10月1日までに成し遂げられた当時の東北本線の複線化工事に伴って実施された急勾配緩和の工事の模様が参考になる。

国鉄は1965年ごろ、いまはIGRいわて銀河鉄道いわて銀河鉄道線となっているいわて沼宮内(当時の駅名は沼宮内)―一戸間32.5kmを複線化するに当たり、この区間に存在する25パーミルの急勾配を緩和すべきかどうか、緩和するのであればどのように緩和すべきかを経済比較と銘打って試算した。

前提として挙げておきたいのは、この時点で同区間内の御堂―奥中山高原(当時の駅名は奥中山)間7.1kmはすでに複線であったという点である。複線化に当たり、従来の線路の横に腹付けして増設する方式の試算ではこの7.1km分を複線にするための投資額は不要だ。反対に勾配を改良して線路を増設するという新線への切り替えでは、1956年10月8日に完成したばかりの複線への投資が無駄になる。

 
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