西日本の「物流大動脈」山陽線の特殊な事情 急曲線と急勾配で貨物大量輸送に不向き
さて、大量輸送にはできる限り勾配を緩くしたい。JRの主要幹線では最も急な勾配を10パーミル(水平に1000m進んだときの標高差が10mであることを示す)以下とするというのが一応の基準だ。
旅客列車については列車そのものの質量が小さく、なおかつ勾配に強い電車が主流となったためにあまり問題とされない。現実に新幹線には35パーミルの勾配区間も存在する。
しかし、貨物列車は質量が大きく、機関車の引張力には限りがあるので、10パーミルを超える上り勾配はやはり避けたい。近年は機関車の性能が向上したので、走行自体はおおむね可能だが、均衡速度といってこれ以上出すことのできない速度が時速20~30km台と非現実的なほど遅くなってしまう。したがって、貨物列車の質量を減らすか、機関車の数を増やすかのどちらかで対処することとなる。
貨物列車のうち、輸送力の特に大きな列車とは、貨物と貨車とを合わせた質量が1000tを超える列車で、コンテナ列車であれば1300tが、石油タンク列車であれば1380tがそれぞれ最大だ。これらの貨物列車は一部の例外を除いて上り勾配が10パーミル以下の区間でしか運転されていない。
山陽線の「例外的」な急勾配
その一部の例外こそが山陽線だ。2区間あり、一つは三原―海田市間に含まれる八本松―瀬野間で勾配は最急22.6パーミル、平均で22.5パーミル、もう一つはJR九州が第一種鉄道事業を実施する下関―門司間6.3kmの関門トンネル内で最急、平均とも20パーミルとなる。
山陽線で1300tのコンテナ列車を牽引するEF210形直流電気機関車の場合、10パーミルの勾配区間での均衡速度は時速66kmだ。しかし、八本松―瀬野間ではそのままでは均衡速度は半分以下に落ちてしまう。
補助機関車のEF67形またはEF210形の直流電気機関車1両を補助機関車として連結することで、この区間での均衡速度は時速75kmまで向上する。現実には同時に存在する半径300mの曲線区間での速度制限が加えられるために最高速度は時速60kmに抑えられているのだが。
八本松―瀬野間では上り線となる瀬野駅から八本松駅までの間が上り勾配となるため、その前後の区間となる広島貨物ターミナル駅から西条駅までの間の30.2kmで貨物列車の最後尾に補助機関車の連結を行う。
なお、八本松―瀬野間では600t以下の貨物列車であれば補助機関車の連結は不要だ。しかし、そのようなコンテナ列車は設定されていないし、閑散期でコンテナがあまり搭載されていないときもあるとはいえ、1300tのコンテナ列車の場合、連結された26両の貨車だけで質量は約490tとなる。このとき、5tのコンテナを22個、つまり4両分全部と1両のうち2個積むと600tに達してしまうから、補助機関車は事実上すべての貨物列車に必要であると言ってよい。
いっぽう、下関―門司間では2車体をもち、他の区間で用いられている機関車よりも出力の大きいEH500形交直流電気機関車に交換して対処する。関門トンネルの急勾配区間は戦時中の突貫工事の名残で、九州内で産出された石炭を本州に運ぶため、運転への苦労よりも完成を優先させたのだ。
なお、門司駅の構内には架線を流れる電気の種類が変わる境界があり、関門トンネル内は直流で、九州内は交流でそれぞれ電化されている。このため、山陽線神戸―下関間で用いられていた直流電気機関車ではどのみち走行できず、急勾配に加えて交流電化区間にも対応した電気機関車への交換は、八本松―瀬野間ほど余計な手間には感じられない。
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