そう、『まんぷく』成功の本質的な理由として私が注目したいのは、ヒロイン・安藤サクラへの「朝ドラらしからぬ」過度な傾倒ぶり、重い負荷のかけ方である。言わば「安藤サクラ心中」とでも言えるキャスティング戦略である。
オープニングの最後で、安藤サクラが、海に向かって大の字のポーズをとるシーンなど、「そんな負荷なんて、私が全身で受け止めるわよ」という宣言のようにも見えてくるのだが。
ここで確認したいのは、これまでの安藤サクラと、『まんぷく』での安藤サクラとの違いである。
言うまでもなく、安藤サクラは、日本を代表する若手演技派女優の1人。私は、NHKのテレビドラマ『書店員ミチルの身の上話』(2013年)で、その不思議な存在感に着目し、映画『百円の恋』(2014年)で才能に驚嘆、そして、2016年のテレビドラマ=NTV『ゆとりですがなにか』で完全に魅了されてしまったのだ。
この3作品における安藤サクラの魅力を一言で言えば、「日常の疲労感を身体全体から発する演技ができること」。この点、日本の女優としては屈指と言えるのではないか(これは、『書店員ミチルの身の上話』『百円の恋』で安藤サクラと共演した新井浩文にも共通する。新井は「男・安藤サクラ」の風情がある)。
しかし、『まんぷく』の安藤サクラは、これら3作品における彼女とは、180度異なる。天真爛漫、前向き、快活、そして見てくれについても、前髪ぱっつん、明るい色の可愛らしい洋服に、初回では何と、セーラー服姿まで披露した。
「安藤サクラ心中」の本質
ここで1つの考えが浮かぶ――「『まんぷく』は、安藤サクラのコスプレドラマ」ではないか。そしてその「コスプレ」性こそが「安藤サクラ心中」の本質であり、また『まんぷく』を「普通の朝ドラ」から「普通よりも魅力的な朝ドラ」に仕立てているのではないか、と。
そもそも朝ドラ自体に「コスプレ化」の流れがあったという見方がある。芸人としても俳優としても名高いマキタスポーツは、自著『越境芸人』(東京ニュース通信社)で、最近の朝ドラについて「方言のコスプレ感がハンパじゃなくなってきました。もっと言うと、衣装も文字通りコスにしか見えない」と看破している。
その流れの中でも、「日常の疲労感」を演じ続け、発し続けてきた32歳の安藤サクラによる、前髪ぱっつん・セーラー服姿などは、朝ドラ史上破格のコスプレ感だと思うのだ。そして、抜群の演技力と見事な関西弁を携えながら、その「プレイ」を安定的に見せ続ける安藤サクラもまた素晴らしい。
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