速いけど不便?香港-中国「高速鉄道」の実情 開業1カ月、現地在住者は「在来線で十分」
一方、今回の高速鉄道乗り入れに合わせて香港と北京、上海を結ぶ高速列車も運行が始まり、北京行きは従来の直通車で24時間もかかったのが9時間余りになるなど大幅な所要時間短縮が実現した。夜行に乗れば十分ビジネスユーザーにも受け入れられるタイムディスタンスなのだが、昼行便の設定しかないのが残念だ。
北京/上海―香港を結ぶ直通車は、1997年の香港返還によって中国本土との結びつきを強化することを示す象徴的な列車として生まれたという経緯がある。しかし近年は格安航空会社(LCC)の台頭で、中国各地から気軽に香港を訪れることができるようになった。高速鉄道も開通したことで、今後の旅客需要の動きによっては、目的地まで24時間もかかる列車の存続が脅かされそうだ。
日本のかかわり、そして今後は…
「直通車」で忘れてはならないのは、香港側オペレーターのMTRが運行している2階建て優等車両だ。これは1997年に、当時この路線を運営していた九広鉄路(KCRC)が日本の近畿車輛から導入した客車で、ktt(九広通)と呼ばれる。
kttは特等車と1等車から構成されるオール2階建て客車の編成だ。本土側のオペレーターである広深鉄路の車両には特等席も2階建てもないこともあり、車両の居住性を考えて「香港出張の際はkttの便をわざわざ選ぶ人が多い」(前述の広州駐在員氏)という。
近畿車輛は、東鉄線(ホンハム―羅湖間)などの近郊車両も川崎重工業・伊藤忠商事とのコンソーシアムで受注しているほか、川崎重工業は郊外の新界地区を走るライトレール(LRT)車両も受注した経緯がある。それまで英国の影響が強かった香港の鉄道市場に、返還後の一時期日本製車両が入ったことは記憶すべき成果と言えよう。
香港が中国に主権返還されてから今年で21年目を迎えた。本土からの人の流れは返還当時と比べて圧倒的に増えている。かつては、香港から中国へ行くには「直通車」があったとはいえ、多くの市民は本土側の深圳へつながる陸路検問所がある羅湖駅まで各駅停車で行き、パスポート審査の列に長時間並ばされ、ようやく本土側にたどり着く……といったルートを経たものだ。
高速鉄道で向かえば、深圳の新市街地の真ん中までわずか15分。しかし、一見不便なこの羅湖経由ルートも、値段の安さと高頻度で電車が走るなどの理由で、高速鉄道開通後も依然として高い需要がある。ちなみに、新たに開通した港珠澳大橋も、マカオ市民からは「橋を通るバスに乗るより、市街地に港がある高速フェリーのほうが便利」との声が聞かれる。
「速く移動できる手段ができても、既存のものはすべて残す」という形で新たな時代へと足を踏み出した香港の長距離鉄道網。今後の需要いかんでどのような展開をたどるのだろうか。
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