速いけど不便?香港-中国「高速鉄道」の実情 開業1カ月、現地在住者は「在来線で十分」

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そんな中、香港と本土を結ぶ在来線の特急列車にあたる「城際直通車(Intercity Express)」は高速鉄道開通後も無事に生き残った。「直通車」の歴史は香港発展の歴史をそのままたどったと言っても過言ではなく、開通は第一次大戦開戦前の1911年。途中、1937年から1979年まで運行を休止していたが、中国の改革開放の進展とともにその重要性は増していった。

直通車の広州東駅までの所要時間そのものは2時間弱と、高速列車の最速便の47分と比べて倍以上かかるが、広州南駅到着後の市内中心部までの移動時間を考えると「遅いから不便」と考えるのは早計だ。

巨大ターミナルである広州南駅のコンコース(筆者撮影)

広州で働く駐在員氏は「高速鉄道は速いんですが、広州南駅があまりに巨大すぎるので困るんです。列車から降りて10分以上歩かないと地下鉄駅に着かない感じ。しかも、香港からでも国内列車として到着するので、いきなり『大勢の人民』が行き交う通路にグイグイ歩いて入って行かなければならないんです。あれは中国に慣れない出張者はきっと面食らうでしょうね」。

これに対し、直通車は到着後に入国審査を行ったのちに駅から外に向かうことになる。出口通路が空港での国際線到着時のルートさながらに分割されているため、一般旅客の波に揉まれることなく外へ出られるというメリットもある。

「どうしても中国の新幹線に乗ってみたい、というオーダーがないかぎり、われわれは従来のルートを勧めるでしょうね。そうでなければ、香港まで迎えに行って一緒に広州へ来ないとどこかで迷いそうです。そもそも、出張者に『香港で電車に乗る前にパスポートチェックがある』って説明しても『なんで香港は中国なのに審査があるんだ?』といぶかるし。難しいモノができてしまった感じですね」

走り続ける「直通車」

中国本土と香港を結ぶ直通車は、高速鉄道が香港へ乗り入れるという状況の中でも廃止を問う議論さえ出ることなく、淡々と今も広東省および北京、上海とを結ぶ便が走っている。

香港と中国本土を結ぶ鉄道は、高速鉄道開業後も従来のルートがすべて残った。香港・ホンハム駅を発車する広州東駅行きの「直通車」(筆者撮影)

直通車に乗る際の出入境審査は、香港・九龍半島のほぼ先端にあるホンハム駅および中国側の下車駅(逆向きも同様に旅客の発着駅)で行われる。つまり、国際線の航空機と同じような手続きを取っており、旅客は列車が走っている間、どちらの領内にもいない状況となる。

興味深いのは、従来ルート(といっても時速160km運転が可能)経由の香港と北京/上海を結ぶ列車は、片道24時間前後もかかるのに、出入境審査が列車の起終点でしか行われないことだ。途中駅でも停車するが、国内区間では国内線用車両が増結され、香港発着の乗客は車両から降ろしてもらえない。

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