速いけど不便?香港-中国「高速鉄道」の実情 開業1カ月、現地在住者は「在来線で十分」

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香港・西九龍駅での「一地両検(一カ所で香港と本土のパスポートチェックを行うこと)」実施に当たっては、香港の民主派議員を中心とする人々から大きな批判の声が上がった。「中国本土の法律や警察権が及ぶ駅を香港領内に設けるのは、返還前に交わされた香港基本法の精神に反する」という理由からだ。高速鉄道の開通よりもむしろ、一地両検の是非を問う声が大きいことが世界的に知れ渡ったのは皮肉な結果だったと言えようか。

これとよく似たパターンとしては、フランス・パリ北駅からロンドンに向かう「ユーロスター」利用の際、フランスの出国およびイギリスの入国審査を乗車前に行う例がある。ここでもパスポートチェックの列に時間がかかることを見越して、45~60分前には改札内に入ることが奨励されている。ロンドンからユーロスターで出発する場合はイギリスの出国審査は省かれ、フランス側の入国審査を出発前に受ける。

香港を150年余りに渡って統治したイギリスでも「一地両検」には関心が集まった。BBCニュースでも「ユーロスターではなんら問題にならないこの制度が、なぜ香港でこれほどまでこじれたのか?」と取り上げられ、香港出身の政治記者が「中国と香港はいまだに特殊な関係にある。一国二制度をしっかり維持すべき、という声もとても大きい」と解説する一幕もあった。

高速鉄道は時間がかかる

「新幹線ができたので試しに乗ってみたけど、香港から広州の駅までよりも、降りてから会社までの地下鉄に乗ってる時間の方が長かった。もう使わなくてもいいかな? 香港では駅での手続きに時間がかかるし……」。広州東駅にほど近い高層ビルにオフィスを構える日本人駐在員はそんなことを話していた。

広州南駅は中国の高速鉄道ターミナルの例に漏れず巨大。都心から離れているのが難点だ(筆者撮影)

高速鉄道が発着する広州南駅は、広州の中心地から南西に30kmほど離れている。都市機能が集中し、外資企業のオフィスも多い都心からは大きく離れており、地下鉄で40~60分も移動しなくてはならない。所要時間だけで見たら「東京駅から京浜東北線で横浜へ行って、そこで高速鉄道に乗る」という例えがわかりやすいだろうか。

それぞれの利用者の最終目的地がどこにあるか、という問題はさておき、中国の高速鉄道の発着駅は広州に限らず、旧市街地の中心地から遠く離れたところに設けられている例がほとんどだ。香港から広州まではそもそも120kmしか離れていないので、いくら鉄道が速くなっても、街から離れてしまったのでは利用価値が下がってしまう。

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