ユーザーとシステムをつなぐラストワンマイルをソフトバンクは持っていない。かつてADSL端末の無料配布まで行って、ラストワンマイルの構築に苦労したソフトバンクには、自動車事業でそれをやるのがどれだけ大変かが身にしみてわかっているはずだ。そのソフトバンクから見たとき、巨大な生産設備と品質管理システム、それに加えて、レンタカー拠点もあわせて日本全国に6000の店舗ネットワークを持つトヨタの資産は非常に魅力的に映ったことは想像にかたくない。
精度の高い大量のデータをトヨタは持っている
加えて言えば、ソフトバンクが最も得意とするAI領域の競争力を上げるために不可欠なのは、精度の高い大量のデータだ。トヨタはすでに新型「クラウン」や「カローラスポーツ」、タクシー車両の「JPN TAXI」でデータ収集とそれを常時送信するコネクティッドシステムをリリースしており、これを利用すれば、世界でも最大級の規模で良質なデータが取得できる。このデータがなければ、AIは電源につながっていないPCのようなもので価値を失う。
そうやってトヨタが集めた膨大なデータを、サービス事業会社が生データのまま扱うのは個人情報保護のうえでも、資金のうえでも、技術のうえでも難しい。そこはサービス事業会社が独自に負担するのではなく、プラットフォーム側が処理を済ませて提供したい。だから、マネジメント会社はサービス事業各社に向けたAI分析を受託する機能も持たなくてはならない。
こうした機能は、言ってみればコンビニの本部機能に近い。こうしたマネジメント会社が必要であるという点で、トヨタとソフトバンクの考え方は完全に一致したのである。両者の切望する機能として設立されたのが今回のMONETである。
今回の提携のポイントは、複雑怪奇なe-PaletteによるMaaS事業を最短でシステム化することにある。そしてそれを事業化するためには、AIやデータ収集というバーチャルな領域とリアルなサービス拠点、つまりバーチャルとリアルを両方併せ持つことを誰よりも早く実現したことが有利に働く。
これはかつての、人類が月に最初に立つための競争に似た、真のMaaSの確立をにらんだ大競争であり、今回の提携で、どうやらその最先端にトヨタとソフトバンクが躍り出たということを意味するのだと思う。
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