三菱レイヨンが英ルーサイト社を買収、10年の思いかなう
三菱レイヨンが長い間、思い続けた「意中の恋人」と結婚した。英国化学大手でMMA系専業メーカーのルーサイト・インターナショナル(以下、ルーサイト社)を買収すると発表。買収総額は16億ドル(約1600億円)、09年1月までに発行済みの普通株および優先株のすべてを、同社株を保有する英国投資会社のチャーターハウスなどから取得する。
ルーサイト社は、世界的な化学メーカーの英国ICI社、米国デュポン社のMMA事業を受け継いだ専業メーカー。特にMMAモノマー製造に強みをもち、欧米、アジアに生産拠点をもつ。売上高は約17億ドル、従業員数は約2000名。
三菱レイヨンは、中期経営計画の中で2015年に売上高1兆円を目指しており、その中でもアクリル系(MMA系、AN系)事業の拡大を大きな柱としている。MMA事業は「コア中のコア事業」(鎌原正直社長)であり、前08年3月期の売上高の45%、営業利益の59%はこのMMA系の事業が占める。
MMAの加工品は、パソコンや携帯などの樹脂板や自動車のテールランプ、レンズなどのほか、家電、看板、水槽、筆記用具など、用途は多岐にわたり、その原料となるのがMMAモノマー。このモノマーから個体のホモポリマー、コポリマーなどが作られる。ルーサイト社は、このMMAモノマー生産能力で世界シェア23%をもつトップメーカー。今回の買収で、三菱レイヨンは約35%の世界シェアをもつことになる。
生産拠点は、三菱レイヨンがアジアに集中しているのに対して、ルーサイト社は欧米のウエイトが高く、販売先についても同様で、その意味では補完関係が成り立つ。製品群でみても、三菱レイヨンはモノマーからポリマーまで一体運営だが、ルーサイト社はモノマー比率が高い。
特に技術面で注目されるのが、製造方法だ。1937年にICI社が世界で最初に工業化したACH法が、現在もMMA製造方法の主流だが、83年に三菱レイヨンが工業化した直酸法(C4法)もある。さらに今年、ルーサイト社は新エチレン法(アルファ法)の工業化に成功し、シンガポールの新工場が年内にも本格稼働する予定だ。
この三つの製造方法は、それぞれ特徴があり、ACH法はアクリロニトリルの副生産物である青酸の入手と工程で発生する硫酸成分の処理が伴う。またC4法は原料のひとつのイソブチレンが製造拠点の場所によっては調達が難しい。それに比べ、ルーサイト社のアルファ法は、原料がメタノール、エチレン、一酸化炭素と調達が用意で、コスト競争力もあるといわれる。この三つの製造方法をもつことは、地域的なものに加え、製造技術面でも最適な体制を構築できる面でメリットは大きい。
ルーサイト社の買収を巡っては10年前から紆余曲折があった。ICI社がこの事業を売却するときに、三菱レイヨンは手を挙げたが失敗。そして06年、チャーターハウス社が所有権を握っていたときのオークションにも参加したが、これも敗退。過去2回の敗北を経験しているだけに、3度目の正直となるか。鎌原正直社長が三菱レイヨンに入社した65年当時は、MMA事業は売り上げの10%足らずを占める部門に過ぎなかった。そこへ鎌原社長は、最初に配属された。その後MMA事業は、同社の大きな柱に成長しただけに、鎌原社長の思い入れも並々ならない。
相対での買収交渉は年初から始まった。途中、中東勢がファンドと組んで対抗馬として名乗りを上げた。買収金額はつり上がる。鎌原社長の頭の中には、過去の2度の敗北が頭をかすめた。「また、今回もか……」。
しかし、千載一遇のチャンスがやってきた。「10年に1度の大チャンス」と鎌原社長は話す。8月以降の金融危機により、中東勢も慎重姿勢になってきた。一方、鎌原社長は「これを逃したらピンチになる」と、危機感さえ持って望んでいた。MMAモノマーのさらに川上分野を握る中東勢に、ルーサイト社を取られてしまったら、三菱レイヨンの事業へも大きく影響するからだ。
そして神風が吹く。米証券大手リーマンブラザーズ社の破綻で一気に金融危機の様相を深め、円高も急激に進んだ。買収金額は一つの大きなポイントだっただけに、円換算での実質値下がりは三菱レイヨンにとって強力な追い風になった。
買収金額の1600億円は、当面、三菱東京UFJ銀行からのブリッジローン(つなぎ融資)を受けるが、1年以内に社債の発行や銀行借り入れ(パーマネントローン)などに切り替えていく方針。10年3月期は営業利益ベースで50億円、11年3月期以降は100億円以上のシナジーを見込んでいる。のれん代、無形固定資産は精査中だが、300億~500億円規模、年間の償却費は20億~40億円とみている。D/Eレシオは07年度末の0.5倍から1.7倍へ上昇するが、5年以内には1倍程度にしていく計画だ。
なお、表記の業績予想では、10年3月期からルーサイト社の貢献を見込んでいるが、暫定的もので、今後の取材を通じて精査していく。
(木村 秀哉 撮影:今井康一)
《東洋経済・最新業績予想》
(百万円) 売 上 営業利益 経常利益 当期利益
連本2008.03 418,529 37,508 33,968 14,274
連本2009.03予 405,000 6,000 6,000 0
連本2010.03予 570,000 12,000 8,000 4,000
連中2008.09 198,292 2,942 3,644 126
連中2009.09予 285,000 5,000 2,500 1,800
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1株益¥ 1株配¥
連本2008.03 23.9 11
連本2009.03予 0.0 6
連本2010.03予 7.0 6
連中2008.09 0.2 3
連中2009.09予 3.1 3
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