自然災害の脅威、JRは鉄道をどう復旧させた? 今夏は豪雨や地震で多くの路線が寸断された

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崩壊した盛土の復旧事例も紹介しよう。1998年9月24日の集中豪雨でJR四国土讃線の繁藤(しげとう)―新改(しんがい)間で起きた盛土の崩壊の規模は、延長が53m、高さが37m、崩壊した土の量は約1万5000m3であった。

復旧に当たっては次の3つの工法が候補に挙げられる。

1.仮設の桁に線路を敷き、列車の運転を行いながら盛土を築いて復旧する方法
2.仮設の桁に線路を敷き、橋梁を架設して復旧する方法
3.盛土を築いて復旧する方法

地質、工期、工費などを勘案すると、3が最良、次いで1、最下位が2という順となり、盛土を築いて復旧工事が行われた。その際、盛土に必要な1万m3以上の材料のすべてを土とはせず、搬入が容易で工期も短縮可能な気泡モルタルが採用される。半年を要すると見られたものの、80日後の1998年12月25日に復旧を果たした。

7月豪雨での復旧事例については、山陽線三原―白市間のうち、本郷―河内(こうち)間で起きた盛土崩壊の復旧例で外観を見る限りでは、壁面はコンクリートで仕上げられている。恐らくは内部に土讃線繁藤―新改間の盛土同様に気泡モルタルが用いられているのかもしれない。

山陽線は防災面で課題を抱える

さて、山陽線は旅客の幹線であると同時に、貨物輸送の大動脈である点は言うまでもない。本稿執筆時点で不通となっている山陽線三原―白市間を通る貨物列車が運ぶ貨物の輸送量は、2016年度の貨物地域流動調査で算出すると年間775万2743t、1日平均2万1182tと推計される。同じ年度のJR貨物の輸送トン数は3094万tというから、同社は実に全体の4分の1に相当する25.1%もの貨物を運べなくなったと考えてよい。

同区間をはじめ、山陽線の三原―海田市(かいたいち)間にさまざまな課題がある。西高屋(にしたかや)―八本松間を除いてほぼ全区間で狭い谷間に線路が敷かれているために、今後も集中豪雨で被害を受ける可能性が高いという点がまず1つだ。そして、そもそも明治時代に山陽鉄道が敷設した線路の規格と大きく変わっていないという点も挙げられる。

具体的には、半径300mの急曲線が頻繁に現れ、しかも八本松―瀬野間では八本松駅に向かって平均で22.5‰(‰=パーミル、水平に1000m進んだときの高低差を指す)の上り勾配となっているため、貨物列車に補助機関車を連結することが必要だ。7月豪雨で大きな被害を受けたため、防災上有利でしかも曲線や勾配を改良した新線への切り替えを検討してもよいのかもしれない。しかし、新線の敷設は困難だ。なぜ三原―海田市間が新線に切り替えられないかの理由は、機会があれば記したい。

梅原 淳 鉄道ジャーナリスト

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うめはら じゅん / Jun Umehara

1965年生まれ。三井銀行(現・三井住友銀行)、月刊『鉄道ファン』編集部などを経て、2000年に独立。著書多数。

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