ソフトバンクが自動車産業の雄になる理屈 「クルマ×IT×通信×エネルギー」をカバー

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次世代自動車産業の覇権を握ると言われているライドシェアへの投資も盤石そのもの。世界最強の布陣です。まずソフトバンクはウーバー(Uber)です。また中国の滴滴出行、インドのオラ、シンガポールのグラブといった主要プレイヤーにも出資することで、日本、欧米、中国・アジアのすべてをカバーしています。

国内ではトヨタとの「ガチンコ」勝負の様相を呈しています。トヨタは、タクシー業界を最大の顧客層としているために表立ってライドシェア解禁を叫びにくいなか、タクシー業界と手を組み、配車支援システムの開発などで協働しています。対するソフトバンク陣営は、ウーバーや滴滴出行を担ぎ、狭義のライドシェアが認められていない日本国内に対してもタクシーの配車システムを提供するとしています。おそらくはビッグデータを収集、なし崩し的にライドシェアを国に認めさせようという思惑があるはずです。

これらはAI、IoT、ロボットと、今後10年の急成長が見込まれる市場をおさえる動きでもあり、巨額な買収を重ねて時価総額も急拡大中。『日経ヴェリタス』(2018年3月25日)での投資家アンケートでは、10年後の時価総額はトヨタを抜いてソフトバンクグループが1位に躍り出ると予想されていました。

さて、いったいこれは何を意味しているのでしょうか。

まず言えるのは、巨額の投資を通じて次世代自動車産業のあらゆるレイヤーに出資領域を広げることで、各レイヤーから着実に利益が入ってくる仕組みを整えた、ということです。通信、自動運転、半導体、EV、電力・エネルギーと各レイヤーの主要プレイヤーに残らず投資をしているため、「ソフトバンクは、誰が勝っても儲かる仕組みを構築しようとしている」とよく指摘されます。

今後もソフトバンクはサウジアラビア政府と立ち上げた10兆円規模の超巨大な投資ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」(通称「10兆円ファンド」)などを通じて、投資を進めていく方針です。

孫正義社長は何を目論んでいるのか

ソフトバンクは「一番に徹底的にこだわる」会社でもあります。

先ほど私は、次世代自動車産業の全レイヤーに投資をすることで誰が勝ってもソフトバンクに利益が落ちる仕組みが整った、と言いました。しかし実態は、そんな生ぬるい話ではないのです。

通信、電力から自動運転、ライドシェア、サービスまでフルラインナップの投資ポートフォリオを見れば、孫正義社長の真意は、次世代自動車産業そのものの覇権を取りにきていると判断すべきではないでしょうか。

ソフトバンクのもとには、投資先からあらゆる情報が寄せられていることでしょう。100%買収したARMはモバイル半導体で圧倒的なシェアを持っています。そこからは、半導体というインフラに関するトレンドやその行く末が伝わってくるはず。同様に、次世代自動車産業のあらゆるレイヤーの、あらゆる主要企業からもコンフィデンシャルな情報を入手しています。

そして、それぞれの投資先のキャラが立った創業経営者と直接親しく話をしている孫正義社長。どのような話が密室で行われているのか想像を絶するものでしょう。10兆円巨大ファンドの主たる目的は、そこにもあるのではないでしょうか。

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