ソフトバンクが自動車産業の雄になる理屈 「クルマ×IT×通信×エネルギー」をカバー

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いまや、次世代自動車産業を含むハイテク産業の主要企業をおさえ、世界の「クルマ×IT×通信×電力・エネルギー」をカバーしています。中国ではアリババ、あるいは滴滴出行を通じてすべての覇権を狙っている。日本ではライドシェア企業を中心に、出資先とソフトバンクの掛け算によって覇権を取りにいこうとしています。300年という超長期のビジョンを実現する布石として、足元では次世代自動車産業を支配しようとしている。私はそう考えます。

社会的な使命がなかなか伝わってこない

とはいえ、最後に若干の留意点を述べたいと思います。

ソフトバンクが次世代自動車産業の覇権を握る。国内外のさまざまな主要プレイヤーを傘下に置き、自動車王国日本は引き続き健在。そのような輝かしい未来を思い描くとき、両手を挙げて素直に喜べない気がするのは、現在のソフトバンクから、トヨタほどの社会的使命や大義がなかなか伝わってこないからでしょうか。

無論、「情報革命で人を幸せにする」というミッションを掲げていることは重々承知していますが、このところ孫正義社長からは、日本をどうしたいのか、世界をどうしたいのか、といった強い想いが感じられません。ともすると、「孫正義帝国を巨大化させたいだけではないか」という見方も必要になってくるようにも感じられます。

もっとも、先述の「孫正義の参謀」だった嶋聡氏によれば、孫社長は「個人としては歴史上の英雄になることを目標としている」人物であり、投資や事業の規模が拡大するにつれて、日本や世界を想う気持ちも実際には拡大しているとのこと。そして、目標とする「歴史上の英雄」もつねにグレードアップしてきたそうです。そんな孫社長の想いを正確に市場に伝えていくためには、もはやPRやIRではなく、国家元首の報道官レベルの人材が不可欠であると話していました。

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ソフトバンクの時価総額を分析してみると、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」の状況で推移していることがわかります。これは、積極的なM&Aなどを通じて事業を多角化している企業において、単体でそれぞれの事業を営む場合と比較したとき、株式市場からの評価が低く時価総額が毀損している状況を指しています。孫正義社長の標榜する群戦略が、真に社会的意義という面でも大きく正当に評価されているなら、このディスカウントは発生していないはずなのです。

ソフトバンクが世界的にもこれだけの影響力を持つようになった以上、もう一度、ソフトバンクの社会的な使命というものをもっと顕在化させてほしいと期待しています。その方向性のなかにこそ、ソフトバンクの時価総額も「コングロマリット・プレミアム」の状況となる、つまりは、投資先企業の時価総額の総和をソフトバンクの時価総額が大きく上回るという状況が生まれてくるのではないかと思うのです。

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