あのデトロイトショーが6月開催に移る真相 CESに押され、毎年1月開催の恒例を変える

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要するに北米のモーターショーは冬にしかやらないのがこれまでの原則だ。これは地方ショーも含めても同様で、カリフォルニアのオレンジカウンティショーが9月後半で、これが北米のモーターショーシーズン開始を告げるショーだ。

なぜか? 定説はないが、北米の工業地帯は北部に偏っており、冬の寒さが厳しい。冬季はホッケー観戦やアイススケートくらいしか娯楽がないなか、モーターショーがホッケー同様の冬の娯楽コンテンツとして発展していった、という説がひとつある。

もう1つは、新車の発表は夏休み明けが多い、という事実である。

新型車を生産するには、設備の入れ替えや新しい金型の導入が必要である。日本の進んだフレキシブル工場では、多品種を1ラインで生産しつつ、旧型を生産しながら、新型を立ち上げることも昔から可能だが、かつての欧米の量産工場では1本のラインで1機種生産か2機種が普通で、しかも旧型車の生産を終了してから、設備の入れ替えと新車の作り方に工員が慣れるための習熟期間として数週間以上を要することも珍しくはなかった。生産に穴が空く期間は、夏休みに被せるのが望ましい。

そんな事情もあって新機種の生産開始は9月が多く、新車を発表し売り出すのは冬季が多いのは必然だった。

CES台頭によるデトロイトショーの変化

北米だけでなく、日本、欧州のカー・オブ・ザ・イヤーの発表も、年末から新年にかけたタイミング集中している。要するに、過去1年に発表・発売された新車をくくろうとすると冬に行うのが都合はいい。

にもかかわらず、北米を代表する自動車ショーであるデトロイトオートショーが、6月に開催時期を変える背景にあるのは、世界最大級の見本市であるCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショーの自動車分野での台頭である。

もともとは家電ショーであり、1980年代からはエレクトロニクスショーへと変遷していたCESだが、自動車の電子装備が燃料噴射やオーディオ、ナビゲーションだけではなく、自動運転、EV(電気自動車)の領域へと拡大するにつれ、自動車部品のサプライヤーだけでなく、自動車メーカーそのものが出展するようになってきた。

それを決定づけたのは2015年のメルセデス・ベンツの完全自動運転コンセプトカー「F015」である。ハンドルが格納されて全席が回転して後ろを向き、サロンのようになってしまうコンセプトも斬新であったが、メルセデスがその未来を予感させるコンセプトカーをデトロイトショーの1週間前のCESで発表したことが業界を驚かせた。

さらに翌2016年には、デトロイトに本拠を置くGMが、価格3万ドル台で航続距離383kmを走れるという画期的な電気自動車「シボレーボルト」の量産車を、お膝元のデトロイトショーではなく、そのたった1週間前のCESで発表した。「ついにGMもデトロイトショーを見限ったか」と業界を震撼させた。

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