銀行が「LINEペイ」に到底勝てない根本理由 7500万人がもたらすエリート銀行員の悪夢

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一方、銀行にとって決済サービスは本業中の本業、業務の中核であり、そのビジネスは手数料収入で成り立っている。銀行にはそれ以外のビジネスモデルの経験がない。

銀行がスマホ決済サービスに本格的に乗り出せば、顧客の取引履歴を入手することはできるが、ネット企業のようにそれを本業に活用することはほとんどできないだろう。またそれを外部に販売して儲けるというビジネスについてもまったく不慣れだ。

したがって、銀行が手数料収入にこだわるならば、スマホ決済サービスの分野で競争していくのはかなり難しい。また先行するLINEペイなどによって、スマホ決済の手数料無料化が一気に業界標準となってしまえば、銀行はこの分野に参入することさえ断念せざるをえなくなるかもしれない。

2017年、大手銀行はMUFGコイン、Jコインといった仮想通貨を使ったスマホ決済に乗り出す考えを明らかにしたが、その実現には依然手間取っているように見える。

一時はこうしたスマホ決済のシステムを統一することで、利用者の利便性を高め、利用の拡大を狙っていたが、その試みも頓挫しつつある。三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの3メガバンクは、買い物をするときにスマホで読み取るQRコードの規格を統一することでこの5月にようやく合意したものの、その実現を目指すのは2019年度だ。LINEペイなどネット企業とのスピード感の違いは歴然だろう。

ネット企業などによるスマホ決済が広がると、クレジットカードでの決済や銀行預金による決済が減っていくことになる。これはクレジットカードを系列に持つ大手銀行にとっては、大きな収益減となってしまう。それを食い止めようとして、銀行も自らスマホ決済サービスに乗り出そうとしているのだ。しかしそれも手数料無料化の流れの中では、既存の決済手数料収入を減らしてしまうことには変わりない。

銀行は、決済インフラの構築に巨額の資金を注ぎ込んできた。安定した決済システム、いつでも引き出し可能なATM、1万3000カ所に上る店舗など、銀行全体が抱える決済インフラは、合計で10兆円規模にも上るという。銀行預金の決済取引が減れば、その分、固定費の重みは増してしまう。

このように、銀行にとってスマホ決済サービスへの進出は自らの収益基盤を切り崩すことにもなるという、大きな自己矛盾を抱えている。それゆえに、この分野に多くのリソースを投入していくのは難しいのではないか。

「金融のリデザイン(再設計)」で、銀行が沈む

LINEは、今の金融サービス全体をより利便性の高いものへと劇的に変えていく「金融のリデザイン(再設計)」構想を描いている。決済革命を起こすという豪語も、実は入口でしかない。将来的には融資、資産運用、保険など、さらなる金融ビジネスへの進出を視野に入れているのだ。

また、ブロックチェーン技術を使って独自の「経済圏」を作る構想も示している。LINEの利用者が、各種のサービスにコメントを書き込む、写真を投稿するなどコンテンツの拡充に貢献した際には、独自の仮想通貨を付与するという仕組みだという。利用者は獲得した通貨で各種サービスや商品の代金を支払うことができる。

このように、LINEが既存の金融サービスを次々と切り崩していけば、金融業界とりわけ銀行は顧客情報をLINEに奪われて“中抜き”され、収益機会がどんどん縮小してしまうだろう。

LINEの金融サービスが広まっても、銀行預金や銀行の決済機能がなくなるわけではない。だが、利用者はLINEのサービスを日々利用する中で、どこかでまだ銀行の預金や決済のサービスを受けていることなど、ほとんど意識しなくなるだろう。

LINEの金融サービスが普及する過程では、銀行自体の社会的なプレゼンスも大きく低下していくだろう。決済サービスを奪われることよりも、それこそがエリート銀行員たちにとっての悪夢なのではないか。

木内 登英 野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト

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きうち たかひで / Takahide Kiuchi

1963年生まれ。1987年早稲田大学政治経済学部を卒業、同年野村総合研究所入社。一貫して経済調査畑を歩む。1990年野村総合研究所ドイツ(フランクフルト)、1996年野村総合研究所アメリカ(ニューヨーク)で欧米の経済分析を担当。2004年野村證券に転籍し、2007年経済調査部長。2012年7月~2017年7月、日本銀行政策委員会審議委員。現在、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『金融政策の全論点』(東洋経済新報社)、『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社)。

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