日銀の「ステルス利上げ」は正常化への一歩だ 安倍政権下で広がる本音と建前のズレ

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この調整によって副作用が大幅に解消されるわけではない。長期金利の変動幅を許容しても、国債の買い入れは続く。ETFの対象をTOPIXに広げても、流動性の低い銘柄やゾンビ企業に対する買い入れが増加し、新たな問題となる可能性がある。

東短リサーチの加藤出社長は「本質的な解決策ではない」と批判する。もともと大規模緩和は2年程度をメドに作られたいわば劇薬だ。副作用を減らしたと言える程度にするには、政策の枠組みから修正する必要がある。

日銀が最も警戒しているのは、政策変更に伴い円高が進むことだ。加えて、2018年9月に自民党総裁選、2019年10月に消費増税を控えた政府との調整も必要となる。今回はそれらに配慮して、表向きは緩和強化をうたった応急処置にとどまった。マーケットへのインパクトは少なく、日銀の思惑は成功したと言える。

インパクトがないということは中途半端な調整に終わったということだが、今回の調整からは日銀のスタンスの変化がうかがえる。今年4月に物価目標の達成時期を削除したことに続く今回の政策の調整は、緩和を強引に進める姿勢では明らかになくなったことを示している。

ステルスながら次の一歩も近い?

2017年まで日銀の審議委員を務めた野村総合研究所の木内登英エグゼクティブエコノミストは、今回の調整を「事実上の正常化策だ」とする。「日銀にとって安定していたYCCの枠組みをあえて崩したということは、年内にもさらなる調整を行う可能性がある」(木内氏)と見ている。

YCCの導入によって金利に軸足を移して、国債の購入規模の縮小を事実上進めてきたのを「ステルステーパリング」とすれば、今回は金利を調節する「ステルス利上げ」に当たる。表向きとは裏腹に政策の実態を見れば、日銀は正常化に向けて、一歩を踏み出している。

発表の翌日である8月1日、長期金利は0.145%まで上昇した。今後も日銀の様子を見ながら、上限である0.2%向けてチャレンジしていくことが予想される。それが続けば、「日銀はプラスマイナス0.2%の範囲での指し値オペを守れない可能性があり、上限をさらに引き上げるか、ターゲットを5年に変更するといった追加の調整に向かうだろう」(木内氏)という。

安倍政権との関係から、物価目標の旗を降ろすことはもちろん、「緩和の継続」という看板も外すことはできないが、日銀は明らかに正常化を志向している。今回のYCCへの柔軟化に反対したのは、強力な緩和を主張し続ける原田泰委員と片岡剛士委員の2名のみだった。黒田総裁が次の正常化にいつ踏み切るのか、市場との神経戦が続く。

藤原 宏成 東洋経済 記者

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ふじわら ひろなる / Hironaru Fujiwara

1994年生まれ、静岡県浜松市出身。2017年、早稲田大学商学部卒、東洋経済新報社入社。学生時代は、ゼミで金融、サークルで広告を研究。銀行など金融業界を担当。

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