日本の高速道路は災害にどれだけ耐えうるか 西日本豪雨の甚大な被害と復旧を振り返る

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現在、わが国では都市圏を結ぶ高速道路は1本ではなく複数建設されつつあり、ある箇所が通行止めになっても、別の迂回ルートが確保でき、移動の大きな助けになるということが増えている。

今回も、まず関西と九州を結ぶもうひとつの高速道路である中国道を片側通行で早めに開通させて迂回ルートをつくり、その間に山陽道を完全復旧させて幹線高速網が確保された。タンクローリーや給水車といった被災地のライフラインを支える支援も、高速道路があって初めて現地へとたどり着ける。

ふだんは通行量が少なく、一見無駄ではないかと思われるような高速道路も、迂回路になるという機能も含め、いざというときには貴重なライフラインの役割を果たすことが実感できる。

災害時は域外との交通手段確保を

今回の平成30年7月豪雨の直近の水害で100人以上の方が犠牲になったのは、昭和58年7月豪雨の山陰水害(死者行方不明者113人)にまでさかのぼる。

この当時、私は豪雨の翌日、被害が最も大きかった島根県益田市に、取材のために勤務していた山口市から車で駆け付けた経験がある。国道9号線は松江方面からは完全に通行止めで、山口から入るルートも大渋滞し、なかなか現地にたどり着けなかったことを鮮明に覚えている。災害時に域外との交通手段をどのように確保するかは、人命の救出やその後の復興にいかに大切かということを、その後も折に触れて感じてきた。

震災にしろ、異常気象にしろ、今後も災害が多発する可能性が高まっている。今回の事態は、高速道路の機能や役割を平時だけでなく、緊急時を想定して考える重要性をあらためて考えさせてくれた。

佐滝 剛弘 城西国際大学教授

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さたき よしひろ / Yoshihiro Sataki

1960年愛知県生まれ。東京大学教養学部教養学科(人文地理)卒業。NHK勤務を経て、NPO産業観光学習館専務理事、京都光華女子大学キャリア形成学部教授、リベラルアーツ・ジャーナリスト。『旅する前の「世界遺産」』(文春新書)、『郵便局を訪ねて1万局』(光文社新書)、『日本のシルクロード――富岡製糸場と絹産業遺産群』(中公新書ラクレ)など。2019年7月に『観光公害』(祥伝社新書)を上梓。

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