社会に貢献している人ほど賃金が低い理不尽 無意味な「クソ仕事」ほど賃金が高い

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20世紀になって、金融サービスやテレマーケティングなどの新しい情報関連産業、それから企業法務、人事、広報といった管理系のホワイトカラーの仕事が急拡大している。グレーバーに言わせれば、例えば、プライベート・エクイティ・ファンドのCEO、ロビイスト、PRリサーチャー、テレマーケティング担当者、企業弁護士などは、消えてしまってもたいして困らないし、むしろ社会は良くなるかも知れない類の仕事である。

まるで誰かが意図的に、我々を働き続けさせるためだけに無意味な仕事を作り出したかのようであり、何より問題なのは、こうした仕事は、やっている本人自身が何の役に立つのか分かっていないということである。しかも、このおかしな状況についてこれまで公に議論されることもなかったというのが、グレーバーの指摘である。

実際、イギリスの有力な調査会社ユーガブ(YouGov)がグレーバーの言葉を直接引用して調査を行ったところ、労働者の37%が「社会に対して意味のある貢献をしている」とは思っていないことが判明した。「自分の仕事が有用だ」と思っているのは50%に過ぎず、残りの13%が「分からない」と回答している。

いなくなったら困る人達ほど賃金が低い

つまり、こうした”bullshit job”に携わっている人々は、自分の仕事が「無意味でくだらない」と思いながらも働き続けるのである。(World Economic Forum:“A growing number of people think their job is useless. Time to rethink the meaning of work”でも、こうした調査について言及している。)

これまでは、実際に何かを作り、運び、直し、維持する人々がリストラされてきた一方で、多くの従業員が書類上では週40~50時間働いていることになっていながら、実際に働いているのはわずか15時間程度で、残りは自己啓発セミナーに出席したり、フェイスブックのプロフィールを更新したりと無駄に時間を過ごしている。

バス運転手のように直接的に社会に貢献していて、いなくなったら困るのが明らかな人達ほど賃金が低い(写真:Lute / PIXTA)

そして、医師のようなわずかな例外を除けば、看護師やバスの運転手のように直接的に社会に貢献していて、いなくなったら困るのが明らかな人達ほど賃金が低く、社会的には恵まれない立場に置かれており、逆に人々の怒りのはけ口にされてしまうことが多い。

他方、上述したように、消えてしまってもたいして困らないであろう金融サービスや企業弁護士などの年収は、往々にして10万ドルを超えているというのが、グレーバーの指摘である。

”bullshit job”は、豚肉一切れを売るために5人の人間を雇っていたような、共産主義時代のソヴィエト連邦であれば存在し得ただろうが、利益の最大化とコストの最小化を追求する現代の資本主義社会において、とりわけ利益至上主義の大企業においては、存在し得ないはずである。それにも関わらず、なぜなくても困らない”bullshit job”に賃金が支払われ続けるのだろうか。

グレーバーは、その仕事がどれだけ無意味だとしても、規律を守って長時間働くこと自体が自らを価値づけるのだという現代の労働倫理観は、労働にはそもそも宗教的な意味があるというピューリタンの精神に由来すると考えている。そして、このメンタルな縛りを、現代人の「潜在意識の奥底に組み込まれた暴力」であると言う。

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