「熱海-黒磯270km」を走る長距離列車の全貌 ロングラン通勤電車が1都5県を駆け抜ける

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その次の野木から栃木県に入る。14時33分なので、熱海からまるまる3時間を経たことになる。この間、余裕をもった停車時間があったのは湘南新宿ライン特別快速を待ち合わせた平塚だけで、その場はまだ息抜きを求めるほどの時間経過でもなかった。だが、それからは2時間以上、主要駅でもせいぜい1分という短い停車だけをひたすら繰り返しているので、いささか一息つきたい思いに駆られる。

グリーン車ならばアテンダントが車内巡回の折にバスケットを携え飲料等を販売しているので、時間に余裕がある乗客はあえて新幹線を選ばず、ゆったりした時間を有効活用する例も多いと聞く。しかし普通車では……。

そうした思いの中で到着したのが、小山の次、小山車両センターを擁する小金井である。15両編成であった列車はここで前5両の付属編成を切り離し、10両編成となる。

6分停車の間に切り離し作業を行い、前方のE233系5両は車両基地へ回送される。4回目の交代となる運転士が基本編成運転台で準備を進め、その間、前の車両に乗っていたいくらかの乗客が後方の基本編成に乗り移る。この小金井到着からはドアが半自動扱いとなり、乗客自らのボタン操作となっている。そのため幾度も重ねて開閉する。

広がる田園風景

久々に人のにぎわいに触れる宇都宮到着は15時16分。ここで列車は9分停車し、宇都宮―黒磯間のローカル列車に性格を改める。ホームの人々は学生が多かったが、黒磯行きよりも、後の湘南新宿ライン逗子行きを待つ様子だった。

運転士は5回目、車掌は4回目の交代をして、15時25分に発車。熱海から4時間を超えた宝積寺で烏山線が離れ、気づけば、「緑の絨毯」と言うにふさわしい田園風景が広がっていた。湘南の海原以来の遮るものがない光景である。

車内は帰宅の高校生が増えており、駅ごとに下車してゆくと思うと、矢板でまたぱらぱらと乗ってくる。後部のクロスシート車2両は、友人同士の会話が聞こえてくるのんびりした雰囲気となり、西那須野から那須塩原へ。そして最後部の1号車では、運転室寄りの1区画を「荷物室」と記したテント布で仕切り、新聞輸送を行っていた。宇都宮で積まれた一般紙夕刊とスポーツ紙で、駅ごとに販売店の店員が待ち受け、ドア前に並べた束を引き取ってゆく。

『鉄道ジャーナル』9月号(7月21日発売)。特集は「長距離普通列車」。画像をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

満員の温泉観光客でスタートした上野東京ライン1586Eは、各区間の役割を果たしながら幾度も雰囲気を変え、最後は荷物輸送も行いながら各車数人の乗客とともに、黒磯に到着した。時刻は16時17分で、季節が季節ならば夕方の時間帯である。熱海から267.9km、所要時間は4時間45分。途中の停車駅数は52駅である。

行先表示は「通勤快速上野」へと切り替えられ、22分後の3552Mとして折り返す。1586Eと接続した下り新白河行きはE531系3000代5両編成だったが、3552Mに接続する列車で入ってきたのはキハ110系気動車2両編成だった。交直の電源を切り替えていた黒磯駅構内は今や全体が直流電化され、もはや交流電車の姿は見なくなった。その変化を見て自動改札機を通ると、Suicaからの引き落とし額が「4750円」と表示された。

鉄道ジャーナル編集部

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車両を中心とする伝統的な鉄道趣味の分野を基本にしながら、鉄道のシステム、輸送の実態、その将来像まで、幅広く目を向ける総合的な鉄道情報誌。創刊は1967年。

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