北朝鮮と米国の交渉は異常事態に陥っている 米国の2つのチームが北朝鮮と別々に交渉

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北朝鮮は、協議を非核化のみに絞ろうとすることを非難したうえで、それを理解しシンガポールの取り決めに戻ってくるようトランプ大統領に直接訴えた。「われわれは依然として、トランプ大統領を信頼し続けている」と、北朝鮮は結論づけた。

国家安全保障の官僚たちは、北朝鮮の核プログラムを終結させる任務を遂行しようとしている。官僚たちは、この目標に向けた実質的な進展を終戦宣言につなげようとしたようだ。だが、これは北朝鮮には遠すぎる橋だったようだ、と元高官のユン氏は述べる。「トランプが発言し、北朝鮮はそれを信じている」とユン氏は語る。「ポンペオが来ると、北朝鮮は『大統領が言ったことと違う』と言う」。

2つの交渉を否定できなくなる日が来る

官僚たちは、用意ができていると自分たちが信じている取り決めを実際にまとめようと尽力し続ける考えだ。先週、北朝鮮側と会って行方不明米兵 (MIA)の遺骨の返還について協議し、今後はそのほかの問題についても実務レベルの協議を始める考えだ。一方、トランプ大統領は、最新のツイッターでの宣言によると、金正恩委員長と「握手」によって調印した「契約」がある、と信じている。

ある時点で、2つの交渉が存在していることを、否定できなくなるだろう。しかし、それは数カ月先のことかもしれない。トランプ大統領にとっては、11月の中間選挙後がありがたいだろう。一方、北朝鮮の目標は、中国の支援を受けて韓国との協議に取り掛かることであり、さらには経済制裁を弱めることだ。協議が決着に達することがあればそのときは、経済封鎖と戦争の脅威を組み合わせて北朝鮮に圧力をかけ直すことはほぼ不可能になるだろう。

「文在寅大統領は今後4年間、韓国大統領にとどまるので、戦争寸前の状態に近づくことはできない」と、元国務省官僚で韓国の専門家であるデイヴィッド・ストラウブ氏は語る。「実際に戦争することになれば、韓国は守りの姿勢を強くするだろう。トランプ大統領はあきらめるか、あるいは、いいだろう好きにしろ、同盟は終わりだ、と言うかもしれない」。

これは日本やほかの同盟国を悩ませる可能性だが、間違いなくそういうことである。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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