「心は女性」の学生を女子大が受け入れる意味 トランスジェンダーを巡る歴史的経緯とは?
21世紀においても躍進するアメリカの女子大学に共通する特徴は、性的マイノリティの権利保障を含む人権、環境、平和など、あらゆる社会正義(Social Justice)への深いコミットメントにある。
これらの女子大学は、19世紀後半、市民としての諸権利が女性に認められていなかった時代に創設された女性のための高等教育機関であるからこそ、性(性別に加え、性指向・性自認)、人種、民族、階級、宗教、国籍、地域、障害などによる差別や偏見を撤廃し、ガラスの天井を打ち破る社会変革の推進力となる女性の輩出に尽力してきた長い歴史を有している。
スミス大学の学生が、トランスジェンダー学生を拒否した大学側に抗議の声を上げたのも、そのような社会正義に深い関心をもつ大学が、リベラルアーツ教育を通して市民の権利を擁護する高い意識を醸成してきたからこそと言えよう。
日本女子大の推進力が重要な契機に
日本国内の女子大学の場合はどうだったのか。
2015年2月25日、日本学術会議に性的マイノリティに焦点を絞った初めての分科会、「法学委員会、社会と教育におけるLGBTIの権利保障分科会」(以後、LGBTI分科会)が立ち上がった。
委員長は奈良女子大学副学長の三成美保教授が務め、筆者も本分科会のメンバーとして、2016年5月21日の日本学術会議公開シンポジウムで、アメリカの女子大学とトランスジェンダー学生の受け入れについて報告を行った(参考:三成美保編著『教育とLGBTIをつなぐー学校・大学の現場から考える』第8章、青弓社)。
シンポジウム終了後に同じテーマでの講演を筆者に依頼してきたのが、日本女子大学人間社会学部LGBT研究会メンバーの1人であった。
2017年2月25日に開催された同大人間社会学部学術交流シンポジウム「『多様な女子』と女子大学—トランスジェンダーについて考える」では、2015年末に日本女子大学の附属中学校に電話で寄せられた「一本の問い合わせ」に学園全体がどのように向き合ったかが紹介された。
その「一本の問い合わせ」とは、戸籍上男子の小学4年生の母親から、性同一性障害の診断書があるので男児の受験が可能であるか、というものだった。
プロジェクトチームを立ち上げて検討した結果、「時期尚早」という判断に至ったわけだが、その模索の過程や残された課題を外に広く開いた日本女子大学の推進力こそが、本課題を国内すべての女子大学に問う重要な契機となった(参考:日本女子大学人間社会学部LGBT研究会編『LGBTと女子大学—誰もが自分らしく輝ける大学を目指して』学文社)。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら