「フィット」が「アクア」に地団駄踏む根本事情 ホンダのヒット車、依然販売は堅調ながらも

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とはいえ、モデルチェンジが長く行われないことで新鮮味が薄れているのは事実だろう。また、3世代目ということで、ヴィッツというクルマそのものも存在感は薄れ、その分アクアに人々の視線が集まっているともいえる。

同様のことが、3世代目のフィットにも当てはまるのではないだろうか。初代で提案された画期的センタータンク構想による多用途性も、もはやフィットにとっては常識となってしまった。新しいハイブリッドシステムが目玉となるはずが、リコールでつまずいた。せっかく2世代目で試行錯誤したEV技術も生かされていない。いくつかの要因が重なって、フィットがアクアに水をあけられているのかもしれない。

一方で、ヴィッツがフィットより3年も前に3世代目となっているにもかかわらず、フィットと同様の販売台数を堅持している背景に、根強い人気やトヨタの販売力も感じさせる。トヨタはレクサスを除く4系列(カローラ店、ネッツ店、トヨペット店、トヨタ店)すべてを駆使してアクアを売っている。その拠点は5000店以上に上るとみられており、2000店強といわれるホンダの販売網を考えると、フィットはかなり健闘しているともいえる。

トヨタはかつて、トヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売に分かれていた時代がある。当時の国内自動車メーカーでの評として、「技術の日産、販売のトヨタ」といわれたこともある。自工と自販の合併後も、トヨタの販売に対する熱心さは変わらず、たとえばアクアも発売から7年が経とうとしているが、テレビコマーシャルなどを見ることがある。一方、トヨタ以外の自動車メーカーはホンダも含め、新車が登場した時期以降は、あまり広告宣伝をしない傾向にある。

新車は、発売されたときに買うばかりではない

新車は、発売されたときに買うばかりではなく、消費者個人の都合、たとえば車検がきたとか、もう10年も乗ったとか、そうした時期に買い替えを考えるのであり、その機会に広告宣伝されれば関心を寄せる。ところが、もう新車が出て4年も5年も経っているので広告宣伝費は割かないとなれば、消費者にそのクルマが存在することを忘れさせてしまう。

情報を伝え続けていないと、消費者に忘れ去られてしまうかもしれない?(写真:Honda Media Website)

単に1台のクルマとしての魅力や価値、価格だけでなく、きちんと情報を伝え続けているかどうかも販売台数に影響しているのではないだろうか。インターネットで検索すれば情報があるとはいえ、そもそも存在を忘れられたクルマであるとすれば、検索の選択肢に入らず、情報は広がらないのである。

トヨタの強みは、何も商品性や価格だけでなく、販売への飽くなき執念と拡販への投資の差ではないかと思わされることが多い。テレビによる宣伝に限らず、どのようにすればフィットの存在や価値を改めて消費者へ訴求することができるのか。その充実が、販売台数の回復に効果をもたらすのではないだろうか。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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