JR貨物が足を引っ張る「JR北海道」の経営 貨物輸送量を平準化し道内の物流適正化を
以上見たように、JR北海道にとって、JR貨物は、設備の維持・改修などの費用がかさむ大きな要因となる一方、新幹線収支が赤字になる大きな要因にもなっている。一方で、JR貨物による輸送の受益が特定の荷主に流れているという実情も考え合わせると、全体の関係性を適切に再構築することが、関係者それぞれの持続可能性を確保するために不可欠になっているといえよう。
JR北海道における経営の持続性確保の可能性
上記事情を踏まえれば、JR北海道の経営安定化には、抜本的な対策が不可欠になってくる。具体的には、①単独で維持できないとされた線区のうち、一定の増収効果が生じた線区、沿線自治体や道などにより持続的支援の枠組みができた線区を除いた線区の順次廃止、②JR貨物に由来する費用の貨物調整金などの形による補塡、③新幹線の高速化が不可欠とみられる。そして、こうした条件が整ってようやく、④料金値上げ、⑤関連事業による増益なども一定の寄与が可能になるものと考えられる。ちなみに、上記による増益効果は、①は80億〜100億円程度、②は60億円程度、③は20億円程度(札幌延伸後には40億〜60億円)、④は40億円程度、⑤は20億円程度といったイメージになる。ということは、ほとんどすべての対策が実現して、ようやく経営安定が図られるとの数字であり、実現には予断を許さない状況にある。
また、足下で進む単独で維持できない線区の見直しは、全体としては、抜本解決に向けた一定の時間確保を図る形で決着する可能性が高いとみられる。具体的には、札沼線・北海道医療大学―新十津川間、根室本線・富良野―新得間、留萌本線・深川―留萌間、石勝線・新夕張―夕張間、日高本線・鵡川―様似間の5線区は、バス転換などの方向づけがなされるとみられる。一方で、宗谷本線・名寄―稚内間、根室本線・釧路―根室間、同・滝川―富良野間、室蘭線・沼ノ端―岩見沢間、釧網本線・東釧路―網走間、日高本線・苫小牧―鵡川間、石北本線・新旭川―網走間、富良野線・富良野―旭川間の8線区は、北海道及び沿線自治体の財政支援などの条件が整えば、国の支援を前提に、当面存続する方向での議論が強まるとみられる。
とはいえ、赤字幅などを考慮すると、当面存続となった線区も、上下分離などの抜本的な対応を講じないと持続的な維持は難しいものとみられる。したがって、存続期間中に、地元主導で、増収努力などにとどまらず、他交通機関への代替、存続スキームなどについても鋭意検討を進める必要がある。また、こうした取り組みを評価する仕組みの構築も必要になると考えられる。
JR貨物との関係でみると、JR北海道が単独で維持できない線区のうち、石北本線、根室本線については、JR貨物のために存続する必然性はないとみられる。一方で、室蘭本線は、今後の千歳線の需要増加などを考慮すれば、存続すべき役割はあると考えられる。また、青函共用走行区間については、新幹線高速化の便益のほうがJR貨物利用の便益よりも高いとみられることに加え、高速化できない場合、JR北海道の経営に深刻な影響が続くことから、大部分の貨物を函館―青森、苫小牧―八戸などの区間でフェリーに移行することが現実的な解決策になると考えられる。
JR貨物としては、料金値上げなどにより、ピークの輸送量を相当程度減らすことが採算性を高める上でも効果が高いとみられる。また、青函共用走行区間代替のフェリー料金についても、関係者の一定の負担は必要とみられるものの、価格転嫁を前提にした貨物の負担が本来的な流れといえよう。
道産農産物の季節変動と片荷の構造の転換こそが、設備利用率の向上などを通じた北海道物流の安定化と効率化にとって不可欠になっており、JR北海道の経営安定にとっても不可欠の方向になっている。
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