「投資で損したくない人」が陥りがちな大失敗 「細かすぎる商品の比較」はかえって損をする

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私は「年金とか、運用とかよくわからないから、店頭で直接説明を受けたい」という方には「そういう金融機関もありますよ」とご紹介することがあります。実際、いくつかの金融機関では店舗の窓口でも相談は可能です。すると多くの場合、「でも、口座管理料が少し高いね」という反論が返ってきます。また、「コストは口座管理料だけでなく投資信託の運用管理費用(信託報酬)も大事ですよ」というと、「それはそのとおりですね。でもよさそうだと思った金融機関の商品ラインナップを調べてみたら、運営管理費用が一番安くないものもあるから駄目ですよね?」と質問されたりもします。そういう方はそれだけ熱心に関心を持っているわけですから、それは決して悪いことではありません。

ところが表面的な数字だけで判断するというのも、実は早計なのです。

特にコストは数字で表されるため、ほんの少しの差でも比較ができ「すべてにおいて『1番』を選びたい」という気持ちが先鋭化してしまいがちです。一部でも2番手、3番手のものがあると「いちばん安いところを選択できないのは損」と受け止めてしまいがちです。

「すべて1番」にこだわるより、資産形成を始めるほうが先

もちろん、確定拠出年金は長期の運用ですから、少しのコストの差が長い間には大きな差になってくるので、重要であることは言うまでもありません。しかし同じぐらい重要なのが使い勝手です。運用や手続きに不慣れな初心者でもわかりやすいかどうかはとても重要です。さらには受け取り方によっては、税金などの費用のかかり方も違うので、その自由度も決して疎かにすることはできません。

つまり、一連のサービスや利便性とコストをどのようにバランスをとって選ぶかが大事なのです。決して1つの要因だけで「いちばん安いところ」「いちばんお得なところ」を選ぶべきではないと思います。

最近のiDeCoに関するコストは新規参入と競争で、口座管理料も信託報酬も、ごく一部の商品を除けば3年前より大幅に安くなり、金融機関の中には収益的に耐えきれなくなって、むしろ料金を上げてきているところも出ているくらいです。

これらの情報はきちんと開示されており、比較するサイトもありますから、自分なりの基準で数社に絞って比較すれば、ひどい内容のプランは一目でわかり、選択肢からは消えます。そうやって絞り込んだ中から、あとは自分とその金融機関の相性という「あいまいな判断」(笑)が入ったとしてもそれほど致命的な失敗にはならないでしょう。

今年もすでに半分が過ぎようとしています。投資信託の運用管理費用や口座管理手数料がもっと下がるのではないかと慎重に考えたり警戒したりして、“少しでも得をしたい”という気持ちから始めるのを躊躇する気持ちはわかります。でも、むしろ早くから税の優遇を伴う資産形成を始めることのメリットを考えれば、いつまでも躊躇するのではなく、思い切って一歩を踏み出すほうが良いのです。

大江 加代 確定拠出年金アナリスト

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おおえ かよ / Kayo Oe

大手証券会社に22年勤務、サラリーマンの資産形成にかかわる仕事に一貫して従事。退社後、夫の経済コラムニストである大江英樹氏(株式会社 オフィス・リベルタス 代表)を妻として支える一方、確定拠出年金の専門家としてNPO確定拠出年金教育協会 理事、企業年金連合会 調査役として活動。野菜ソムリエの資格も持つ。

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