「世界一の焙煎士」が嘆くコーヒー業界の窮地 生産地は危機的状況だが、技術革新の希望も
後藤さんが焙煎士になったきっかけ
福岡のイベント会社で働いていた後藤さんがコーヒーの世界に踏み込んだのは、25歳のとき。なじみのコーヒー店主のひと言がきっかけだ。「自分で豆を焼いたほうが安いよ」。生豆を分けてもらい自宅で焙煎するうち、その奥深さとコーヒー業界の人たちに魅かれて、「30歳までにロースターになる」と決意。
2年の独学を経て、東京で開かれた2日間の開業セミナーに参加した。その際、東京の名店を巡り、自分のレベルの低さに愕然としたという。
「明日にでも開業できると思っていたのに、プロとアマの差がはっきり見えて……開業はまだまだと悟りました」。福岡で会社員を続けながら、東京の老舗「カフェ・バッハ」の田口護さんのもとに3年通い、「がっついて」焙煎を学んだ。
32歳で、大野城市に小ぢんまりとした「豆香洞コーヒー」をオープン。
「家庭のコーヒーをおいしくしたい」という思いから、喫茶ではなく、焙煎した豆の販売をメインにした。
「最初の数年は私ひとりで、都心から離れた店にわざわざ豆を買いに来てくれるお客さんとカウンター越しにゆっくり話しながら、自宅でおいしく淹(い)れる方法をお伝えしたりしていました」。
開業してからも日々勉強。東京で味わった挫折感がトラウマとなり、トップレベルの仕事を見たくて競技会にも参加。2013年フランスで開催された「World Coffee Roasting Championship」に出場すると、見事チャンピオンに輝いた。「私は総合点でたまたま優勝できただけ。1つひとつの技術を見ていくと、世界にはものすごい人がいっぱいいると刺激を受けました」と語る横顔に、飽くなき向上心と謙虚さがにじむ。
後藤さんが店を開いて、今年で11年目。世界一の焙煎士となり、明るい未来を描いているのかと思いきや、「生産地の危機的な状況を目の当たりにして絶望している」と打ち明ける。
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