鳶職から転身したITベンチャー社長の生き様 失敗は当たり前、未熟だから乗り越えられた

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副業のおかげもあり、奨学金を返済し終わった32歳で、建設会社を退社。自身のサイトを運営した経験を基に、フリーのウェブデザイナーになった。だが企業のウェブサイトなどを受注する中で愕然としたのは、「建設業界と変わらない」という事実だった。

建設業界の冬の時代には、実は住宅着工件数そのものは2割程度しか減っていなかった。それが内山さんの現場で「支払額半減」にまでなっていたのは、業界のピラミッド構造の中で、中間搾取後のおカネしか内山さんの働く中小企業には落ちてこないからだ。そして「IT職人」の境遇も、建設現場の鳶職人と同じだと内山さんには思えた。こんなはずじゃなかった!

「これがITなのか?本当のITビジネスって何だろう?」。悶々とする中、関心を持ったのはグリーのようなインターネット上のソーシャルゲームを手掛けるベンチャー企業。「テレビCMをたくさん打っているのを見て、何でそんなにおカネがあるのか?と思ったのが始まり」。ITビジネスとは、ネットビジネスではないか。そんな折、起業家の家入一真氏がツイッター上で開いたイベントをきっかけに共同創業する仲間と知り合い、ハンズシェア設立につながった。

IT起業家と同じ土俵では戦わない

この時期、ITエンジニアや起業家などとの交友関係が広がり、内山さんはあることを痛感した。「みんな、びっくりするほど頭がいい。誰もが天才のように思えた」。技術面の知識も、ビジネスモデルの巧みさも、とうてい追いつけないと思った。だから決めた。「この人たちと同じ土俵では戦わないようにしよう」と。

人脈頼みの建設業界にあって、ツクリンクはネットを介した効率的な受発注を実現している(ツクリンクのHPから抜粋)

創業当初のビジネスモデルが難航する中、「天才たちの眼中にはないが、自分だったらわかること」を考えたときに、一度離れた建設業界が浮かび上がった。創業の翌年、建設業者をネット上でマッチングするサービスに方向転換したところ、ビジネスアイデアコンテストで受賞。トントン拍子で日本生命保険傘下のニッセイ・キャピタルから出資を得た。

当時ニッセイ・キャピタルでハンズシェアへの投資判断にかかわった安藤鉄平氏は、こう語る。「スタートアップ企業の経営チームは、一般にエリートといわれるような学歴やキャリアを持つ必要はありません。過去の経験が今取り組んでいるビジネスとリンクしており、さらにその経験を基に、世の中の課題を解決したいという熱い思いがあることが重要です」。内山さんたちは、その条件にドンピシャだった。

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