京急の「テロ対策訓練」は、徹底的にリアルだ JR東海もさまざまな訓練を行っているが…
乗客の中には車いす利用者、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた母親、大きな荷物を抱えた外国人女性も交じっている。ベビーカーの中をのぞくと人形が置かれており、外国人は京急のグループ会社で働くパートさん。本当は日本語ペラペラだが、日本語がまったくわからないという設定である。
不審物と乗客を乗せた列車は小島新田に向け出発し、11時00分に列車が小島新田で折り返し京急川崎に向け動きだすと訓練がスタートした。車内の様子は駅構内に置かれたモニターに中継され、車掌、本部の運輸司令、駅の係員など鉄道関係者、警察、消防らのやり取りもスピーカーから流れてくる。11時05分ごろ、乗客役の社員が非常ボタンを押して、車掌に不審物の存在を伝える。車掌は運輸司令に第1報を伝え、運輸司令は同列車の運行継続は不能と判断し、列車と京急川崎駅に到着ホームの変更を伝えた。
駅員は警察と消防に事態の発生を連絡する。警察署員の声がスピーカーから流れる。「具合が悪い人は何人ですか。詳しく教えてください。えっ訓練?今、訓練と言いましたか?」。
リアルな声で訓練ムード吹き飛ぶ
乗客役の社員が非常ボタンに張られているメモを読み上げるなど、やや予定調和的にスタートした訓練のムードが一変した。駅員から連絡を受けた警察署員の口調が緊迫感に満ちていたのだ。後で確認したところによると、この警察署員には訓練が行われることが伝わっていなかったようだ。しかし、「リアルな声」が流れた後、訓練を見守る人たちの間からいわゆる「訓練ムード」が吹き飛んだように見えた。
列車が駅ホームに到着すると、車掌の指示で乗客役の社員たちが慌ただしく下車。駅員や到着した警官に誘導されながら整然と改札口へ向かった。車内には気分が悪くて座り込んでしまった3人の乗客が取り残されている。
それから5分ほどして黄色い化学防護服を身にまとった3人の消防隊員が到着した。乗客がいる車両にすぐには向かわず、分析機器で辺りをチェックしながら、じりじりと歩みを進める。「化学防護服は火災に弱いので、可燃性ガスが発生していないかチェックしているのです」。今回の訓練を企画した川崎消防署の吉田誠氏が、後で説明してくれた。
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