マイクロソフトがほれた「GitHub」とは何者か 75億ドルの大型買収で狙う「クラウド」強化
かつてのマイクロソフトといえば、「ウインドウズ」や「オフィス」を中心に独自のソフトや端末を売ることに終始する”閉じた”ビジネスモデルを展開していた。特にスティーブ・バルマー前CEOは、オープンソースの代表格であるOS「リナックス」を徹底的に敵視するなど、他社を排除する姿勢が明確だった。
だが、2014年にバルマー氏の後任として就任したサティア・ナデラCEOはそれまでの方針を転換。クラウドインフラサービス「アジュール」を成長の柱と位置付け、アジュール上ではリナックスを使えるようにするなど、真逆のオープン戦略を進めている。
実際、ギットハブの買収発表の電話会見で強調されたのは「Microsoft Loves Open Source(マイクロソフトはオープンソースが大好きだ)」というメッセージだった。
同社の約1万7000人の社員がギットハブにオープンソースプロジェクトを投稿しており、単独企業として最大のコントリビューター(貢献者)となっている。ナデラCEOは「われわれは開発者ファーストの会社だ」と強調する。
すべてはクラウドビジネスのために
クラウドビジネスの成否は、開発者コミュニティの規模で決まるといっても過言ではない。調査会社ガートナージャパンの亦賀(またが)忠明・最上級アナリストは、「新しいデジタルサービスは今後、クラウドから出てくる。それを作る人がいなければプラットフォームは成長しない。マイクロソフトは開発者コミュニティ形成の部分で弱かった」と指摘する。
こうしたオープン戦略で先行するのが、米アマゾンが展開する業界シェア首位のクラウド事業、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)だ。「AWSは使いやすいツールやサービスを常に出し続け、エンジニアを引き付けてきた。コミュニティ作りもうまい」(亦賀氏)。
マイクロソフトのアジュールも、売上高は四半期ごとに前年同期比2倍の成長を続けている。取り組みが株式市場で評価され、株価も上り調子。5月末には米グーグルの親会社アルファベットを株式時価総額で一時追い抜いた。これはアルファベットにとって、設立以来初めてのことだった。
マイクロソフトにとってギットハブを傘下に加えるということは、“マイクロソフトびいき”の開発者を増やす狙いがあるといえる。また、ギットハブの法人ユーザーにアジュールのクラウドサービスを提供し、顧客として取り込むといったことももくろむ。
一方、オープンソースの聖地が一企業の傘下に入ることに懸念を示すエンジニアは少なくない。実際、ギットハブからのユーザー流出が起き始めているようだ。日本企業で働くあるエンジニアは、「ギットハブが自由を失って失望した人たちがいるのは確か。ギットの技術を持つサービスはほかにもあり、流動が大きくなればギットハブ1強の勢力図が変わるかもしれない」と指摘する。
これに対しギットハブのワーナー氏は、「買収されたことによる変化はほぼゼロ。自社データセンターも維持するし、同じくマイクロソフトに買収されたリンクトインや(ゲーム会社の)マインクラフトのように彼らのサービスとは統合しない。独立性を最重視する」と強調した。
マイクロソフトはギットハブ買収で自らの信頼性を高め、エンジニアを引き付けることができるか。今後の動きに注目が集まりそうだ。
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