イタリアとスペインの政権交代で高まる不安 反EUや財政拡張が広がる、欧州危機は去らず

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一方、スペインでは政権交代を実現した社会労働党のペドロ・サンチェス新首相が、他党と連立を組むことなく非多数派政権を率いる方針を明らかにしている。

社会労働党が提案した国民党政権に対する不信任案には、反緊縮を訴える新興左派政党のポデモス連合、カタルーニャの独立を主張する同州の地域政党に加えて、自治州への手厚い予算配分と引き換えに前政権の予算審議に協力してきたバスクの地域政党も賛同した。社会労働党の現有議席は定数350の下院でわずか84にとどまり、これはスペインの歴代政権で最も少ない。政権運営には不信任票に賛同した全政党の協力が不可欠な状況にあり、連立を組まないまでも、法案審議での協力の見返りに他党の要求をのまざるを得ない。

新政権はすでにバスクの地域政党に配慮して前政権が策定した予算を引き継ぐことを明らかにしている。だが、秋に控える来年度の予算審議では、自らの有権者を意識して教育やインフラ投資に手厚い予算配分をすることや、ポデモス連合や地域政党からも財政拡大を求める声が相次ぐことが予想される。イタリアほどではないにせよ、スペインの新政権も拡張的な財政運営に舵を切る可能性がある。

スペイン新政権はカタルーニャ州に譲歩も

カタルーニャ問題にどう対処するかも政権の命運を握る。サンチェス首相はこれまでカタルーニャの独立に明確に反対してきたが、国民党政権と異なり、対話の必要性を訴えてきた。折しも、サンチェス首相が就任したのと同日、カタルーニャでは昨年12月の州議会選後に空白が続いた新議会が召集された。先月に就任した独立賛成派のクィム・トラ新州首相は、同州の独立に向けた歩みを続けることを宣言し、住民投票の断行により国民党政権下で停止された州の自治権復活に向け、サンチェス首相に対話を呼び掛けた。同州議会を率いる独立派の2政党は、先の内閣不信任案で社会労働党に協力したカタルーニャの地域政党。議会運営での協力の見返りに、カタルーニャ州からさらなる譲歩を要求される懸念がある。

政権を追われた国民党は今も議会の最大勢力で、世論調査でリードする新興リベラル政党・シウダダノス(市民)も議会の解散・総選挙をにらんで社会労働党政権への協力を拒否することが予想される。両党と国民党に近い地域政党が反対・棄権に回った不信任案は、残りの全政党の議席をかき集めてようやく議会の過半数を上回った。社会労働党の政権運営は早晩行き詰まるとみられ、2020年の議会任期前の解散・総選挙の可能性が高い。

国民党と社会労働党の二大政党を柱としてきたスペインの政権運営は現在、ポデモス連合とシウダダノスの新興勢力を加えた4頭体制となっている。いずれの政党も単独での政権運営は困難な情勢で、選挙後の政権発足は難航が予想され、その後の政権運営も停滞しがちだ。ユーロ圏内でも最も高い成長が続いてきた近年、スペインの政治停滞が金融市場で不安視されることはなかったが、今後景気が減速局面に転じた際には、財政拡張や政策停滞がにわかにクローズアップされるおそれがある。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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