イタリアとスペインの政権交代で高まる不安 反EUや財政拡張が広がる、欧州危機は去らず
南欧の政治危機によって再び金融市場に激震が走った。3月の総選挙後に政権発足が難航してきたイタリアでは、「五つ星運動」と「同盟」の反体制派2党による連立政権が発足。スペインでは汚職問題をきっかけに国民党政権が倒れ、中道左派の社会労働党が率いる非多数派政権が誕生した。
政局不透明感が比較的短期間で終息したことや、イタリアでユーロ離脱の是非を事実上の争点とする再選挙が回避されたこと、スペインの新政権が極端な政策を主張しているわけではないとの認識が広がったことで、金融市場は冷静さを取り戻しつつある。
だが、今回の危機再燃により、過去数年の間に立て続けに欧州を襲った債務危機や難民危機の余波、第二次大戦後の欧州政治を引っ張ってきた二大政党制の綻びと政治の地殻変動、各国で台頭するポピュリズムの脅威が、まだ消え去っていなかったことが改めて浮き彫りとなった。
債務危機後の束の間の回復を謳歌してきた欧州景気には、年明け以降、急ブレーキが掛かっている。好景気の影に隠れていた危機の火種は、そこかしこに広がる景気減速の兆し、金融政策の転換点が近づいているとの不安、新興国市場の動揺、貿易戦争への警戒などをきっかけに、再び噴出しやすくなっている。では、南欧発のリスク再燃にどのように備えたらよいのだろうか。リスクの所在を確認しておきたい。
イタリアで法定通貨によらない借用証書発行計画
イタリアの新政権がユーロ離脱に突き進む可能性はさすがに低い。政権を率いる2党は、過去にユーロ離脱の是非を問う国民投票の実施方針を掲げていたが、今回の選挙戦ではこうした主張を封印し、選挙公約からも除外した。
ユーロ離脱につながりかねないとして、セルジョ・マッタレッラ大統領が欧州懐疑派の経済学者パオロ・サボーナ氏の経済・財務相への任命を拒否した際、両党は選挙戦でユーロ離脱を主張した覚えはないと反発した。そのサボーナ氏に代わって経済・財務相に就いた経済学者ジョバンニ・トリア氏は、やはりEU(欧州連合)に懐疑的な主張が目立つものの、ユーロ離脱には消極的とみられている。
1999年のユーロ圏発足後のイタリア経済は長期停滞が続き、イタリアの政治家や国民の多くは、経済停滞と生活困窮の責任を単一通貨ユーロに押し付けてきた。イタリアは債務危機の震源となったギリシャと並んで、ユーロ導入国の中で最もユーロに対する信頼が低い国だ。それでも多くの国民は、ユーロ圏からの離脱を望んでいるわけではない。最近発表されたいくつかの世論調査でも、「残留に投票する」との回答割合は6割程度と、離脱希望者の2割前後という数字を大きく上回っている。
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