東電・東芝の「ALPS」は、役に立たない 東工大・冨安名誉教授に汚染水処理の対案を聞く

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この炭酸塩沈殿法にわずかな改良を加えると、放射性ストロンチウムは数百ベクレル/リットルの濃度まで除去できる。せっかく開発した技術を生かさない手はない。

「沈殿分離法」を提案したが、受け入れられず

――今年に入って、地下貯水槽や組み立て式タンクからの汚染水の漏えい、大雨で汚染水が堰からあふれる事故などが相次いでいます。ALPSの本格稼働を待ち続けるのではなく、一刻も早くタンク内にある汚染水のリスクを減らすことに注力すべきではないでしょうか。

炭酸カルシウム沈澱の様子(冨安氏提供)

その通りだ。汚染水が漏れた場合の緊急対策としては、撹拌させながら、①塩化カルシウム水溶液と塩化ストロンチウム(非放射性)水溶液の混合溶液の投入、②炭酸ナトリウム水溶液の投入という手順で対策を講じる。

②の炭酸ナトリウム溶液を投入すると、液は直ちに混濁し、放射性ストロンチウムは炭酸カルシウムとともに沈澱する(写真参照)。

沈殿物は土壌によって濾過されるため、漏えいした場合でも地下水汚染は軽減される。

貯蔵タンクが壊れそうな場合にも、緊急対策の原理を応用できる。つまりタンク内に塩化カルシウム水溶液と塩化ストロンチウム水溶液を投入して、ポンプで十分に撹拌した後に、炭酸ナトリウムの粉末を投入する。放射性ストロンチウムはその99.99%以上が貯蔵タンクの底部に沈澱する。ベータ線より沈殿物は発熱するが、大量の水の自然対流によって冷却されるため、危険性は少ない。「沈澱→遠心分離→乾燥→冷却」が最も確実な方法だが、それが難しいのであれば、タンク内に沈澱させる方法を考えてみるべきだ。

――冨安さんの提案内容は東電に伝わっていないのでしょうか。

原発事故から2カ月後の2011年5月には、清水正孝社長(当時)宛の書簡で、水溶液中で沈澱分離する方法として提案した。その後、担当者から「貴重なご提案ありがとうございます」という返事があっただけだった。今年4月には下河邉和彦会長にも書簡を送ったが何の返答もない。8月には田中俊一・原子力規制委員長に、汚染水処理の緊急提案として意見書を送付したが、反応はなかった。

大地震が来てタンクから汚染水が海に流出したら、取り返しがつかないことになる。それだけに、関係者には現実的な方法としてぜひ真剣に検討してもらいたい。

(なお、冨安氏の提案内容は、東京理科大学のホームカミングデー2013(10月27日開催)でポスター展示。また、9月25日の東電による記者会見で、相澤善吾副社長は「放射線量が高いために、タンク内でのそのような作業(=吸着剤の投入および撹拌作業)は困難」と説明している)

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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